I型アレルギー治療薬オマリズマブ、即効性効果は認められない
順天堂大学は11月7日、I型アレルギー疾患に著効する抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体の作製に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科血液内科学・医学部附属練馬病院の平野隆雄特任教授、研究基盤センター細胞機能研究室の小栁明美助教、免疫診断学講座の葛西正孝研究員、アトピー疾患研究センターの奥村康センター長、アレルギー・炎症制御学の北浦次郎教授、理化学研究所の吾郷日出夫研究員、山本雅貴研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。
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最近の厚生労働省の疫学調査によれば国民の3~4%が喘息、30%が花粉症など、もはやアレルギー疾患は国民病と言える。I型アレルギーは、アレルゲン物質がマスト細胞や好塩基球のIgEと反応した結果、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され(脱顆粒)、血管の拡張や透過性の亢進を引き起こすことで発症する。抗IgE抗体製剤(オマリズマブ:製品名ゾレア)はIgEとIgE受容体との結合を阻害する作用から、I型アレルギー治療薬として臨床応用されている。しかし、オマリズマブは治療効果が現れるまでに時間を要すること、アナフィラキシーなど即効性に効果が必要な疾患には効果が認められないことが問題だった。そこで研究グループは、即効的にI型アレルギー疾患の主幹をなすIgE-マスト細胞を標的とする新規予防・治療法を開発する目的で、1)受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応、2)結晶構造解析などを利用して、既にIgE受容体に結合しているIgEに抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体が作用してアレルギー反応を抑えるかを検証した。
抗IgE Cε2抗体投与により、抗原投与前/後のPCA反応を阻止
今回の研究では、I型アレルギー動物モデルである受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を用いて、抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体によるI型アレルギー疾患の予防・治療効果を検証した。
ラットの皮膚にIgEを注射した後に、抗原を色素とともに静脈注射すると、皮膚局所のマスト細胞はIgEと抗原により活性化して脱顆粒する。脱顆粒により放出されるヒスタミンは血管透過性を上昇させるため、皮膚局所に色素が漏出する。抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体を投与すると、(抗原+色素)投与前および投与後においてもPCA反応を阻止することが判明した。この結果により、抗体の投与によって予防およびアレルギー発症後において、アレルギー反応を阻止するということが確認された。
マスト細胞上IgE受容体結合部位とは異なる立体構造部位に結合
また、結晶構造解析により抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体がマスト細胞上のIgEの受容体(FcεRI)結合部位(IgE Cε3)とは異なる立体構造部位であるIgE Cε2(ab’)2に結合することにより、強い剥離が起こることが考えられた。
以上の結果から、この抗体はアロステリック部位(CHε2)を標的としたアロステリック効果により、IgEを即座に剥離しアレルギー反応を強力に阻止する抗体であることが判明した。
IgE-IgE受容体複合体に直接作用、画期的な新規抗体医薬となる可能性
アレルギー発症後治療は効果に時間を要すること、即効性効果が期待される薬剤が存在しないことが問題だった。抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体はマスト細胞上IgEの受容体(FcεRI)結合部位(IgE Cε3)と異なるアロステリック部位である(IgE Cε2)に結合し、IgEを強力に剥離する作用によりアレルギー疾患の予防、および発症後治療に有用なことが判明した。
「現在、臨床で唯一用いられている抗IgE抗体(オマリズマブ)はIgE受容体に結合するIgEに結合できないのに対して、抗IgE Cε2(Fab-HMK-12)抗体はIgE受容体結合IgEを標的とし、アロステリック効果を利用してIgE-IgE受容体複合体に直接作用する画期的な新規抗体医薬であり、開発に尽力して行く」と、研究グループは述べている。
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