700世帯の子どもを対象に、大人に自分の考えを聴いてもらえていると感じるか調査
国立成育医療研究センターは10月31日、大人が子どもの声を積極的に聴いて取り入れようとすることで、子どもの生活の質(QOL)が向上することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部の山口有紗氏、森崎菜穂氏、Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health,Department of Population, Family and Reproductive HealthのCristina Bethell氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Paediatrics Open」に掲載されている。
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国連子どもの権利条約第12条では、子どもが自由に自己の意見を表明する権利が保障されており、その意見は適切に考慮されると定められている。これまでの研究では、パンデミック以前から、子どもの意見が尊重されることや、大人との応答的な関係性があることで、子どものウェルビーイングが向上する可能性が示唆されてきた。
そこで研究グループは今回、パンデミックの状況下で子どもたちがどの程度考えや気持ちを聴かれ、かつそれを考慮されたと感じたかが、子どものQOLにどのように影響したかを定量的に評価した。同調査は新型コロナウイルス感染症の第3波頃である2020年12月に実施。2020年度の住民基本台帳に基づき、層化二段階無作為抽出法で全国の小学5年生(10~11歳)または中学2年生(13~14歳)の子どもがいる1,500世帯に郵送で質問事項を送ったところ、700世帯から有効回答が得られた。
具体的な質問項目は以下の通り。「声が聴かれているか」という観点では、コロナでさまざまな生活の変化があったことについて、養育者あるいは先生が「考えを話せるように、質問したり確かめたりしてくれた」「考えや気持ちを伝えたとき、それを取り入れようとしてくれた」かについて、子ども自身に5段階評価で尋ね、両方に「いつも」または「しばしば」と回答した子どもを「聴かれている」と定義した。QOLはKid-KINDLを用いて評価。総合点および「身体的健康」「精神的健康」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校生活」のサブスケールについて、中央値で2群に分けて解析した。
養育者と先生の両方に聴いてもらえると感じることでQOLへの効果が強まると判明
調査の結果、いくつかのことがわかった。養育者と先生の双方からコロナ禍での生活の変化について「声を聴かれた」と回答した子どもは、QOLが高くなりやすいことがわかった。
また、養育者か先生のどちらかでもその効果はあったが、両方が揃うことでQOLへの効果が強まることが示された。さらに、単に「考えを伝えやすいようにサポートされている」だけでなく「その考えや気持ちが考慮され、実際に取り入れようとされている」と感じた子どもの方が、QOLがさらに高くなることも明らかになった。
24.6%が「どちらからも声が聴かれていない」と回答、特に中学生で頻度高
52.9%の子どもは「養育者と先生の両方から声を聴かれた」と回答したが、24.6%の子どもは「どちらからも声が聴かれていない」と回答。中学生は小学生よりも声を聴かれたと答える頻度が低い傾向が見られた。子どもたちが大切なことに声をあげ、その声が十分に考慮されることは、子どもの大切な権利のひとつだ。国連子どもの権利条約12条では「子どもの声を丁寧に聴き、それを子どもに合わせて十分に考慮する」ことが定められており、近年ではこども基本法やこども大綱でも、その重要性が強調されている。
声を聴くことは、子どもの成長や子ども時代の肯定的な体験を増やすことにもつながる
今回の研究では、子ども自身が、声が聴かれ、かつ考慮されたと感じることの重なりの重要性が量的に示された。子どもの声を「聴く」際には、子どもから発せられるものをただ受け止めるだけではなく、子どもが気持ちや考えなどを伝えやすいように、その子どもに合った方法でサポートし、その意見が生かされるように一緒に考える姿勢が大切だ。
「近年の研究では、子ども時代の肯定的な経験(PCEs)が子どもと大人の健康にとって重要であるということが明らかになっている。声を聴かれることは、応答的な関係性の中で子どもが育つことであり、子ども時代の肯定的な体験を増やすことだとも言える」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース