血管による圧迫を認めない三叉神経痛、神経形態変化自体が原因となる場合も
東京科学大学は10月30日、三叉神経痛を対象とした神経形態解析の新しい方法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科脳神経機能外科学分野(脳神経外科)の田中洋次准教授、石和田宰弘大学院生、前原健寿教授、同大総合研究院生体材料工学研究所情報医工学分野(中島研究室)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurosurgery」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
三叉神経痛の主な原因は、血管による神経の圧迫であると考えられており、神経減圧術によってこの圧迫を解除することにより症状を改善することが示されている。しかし、三叉神経痛の中には血管による圧迫を認めない症例がある。このような場合には、三叉神経にゆがみやねじれなどの形態変化が起こっていることが報告されている。したがって、血管による圧迫だけでなく、三叉神経の形態変化自体も三叉神経痛の原因となっている可能性がある。今回の研究は、三叉神経の異常な形態変化を定量化し、客観的に評価することで、三叉神経痛の原因解明、診断、手術の意思決定に役立てるために実施した。
神経減圧術実施の70症例、術前と術後MRI画像から3Dモデル作成し比較
今回の研究では、2016年1月~2022年12月に神経減圧術を行った70症例(平均年齢69歳)を対象に解析を行った。術前と術後のMRI画像から三叉神経のセグメンテーションを手動で行い、3Dモデルを作成した。3Dモデルに対して細線化処理を行い、神経の中心線を抽出し、さらに中心線に垂直な方向に3Dモデルの再スライスを行って複数の断面画像を作成。中心線の長さ、曲率、捻率、断面の面積、扁平率、長軸角度と6項目について、病変側と非病変側、術前と術後の比較をそれぞれ行った。
病変側の術前三叉神経、中心線が長く湾曲/断面積が小さく扁平
その結果、病変側の三叉神経は非病変側と比較して、有意に中心線が長く、曲率が大きく、断面積が小さく、扁平率が大きい結果だった。また、術前の三叉神経は術後と比較して、有意に中心線が長く、曲率が大きく、断面積が小さかった。以上から病変側の術前の三叉神経では、中心線が長く湾曲し、断面積が小さく扁平であることがわかった。
術後の神経膨張、良い手術成績と相関の可能性
また、治療成績の良かった群では、術後に断面積がより大きく変化していることがわかり、術後の神経膨張が良い手術成績と相関している可能性が示唆された。
今回新たに開発した方法を用いて三叉神経の形態学的変化を解析することが可能であることがわかった。今後、さらなる解析を進めることで、病態生理の解明や診断の補助、治療効果の予測に役立つ可能性がある。診断精度と治療成績の向上は三叉神経痛の患者の健康で幸福な生活に寄与すると考えられる。三叉神経痛を引き起こす原因として、動脈による圧迫、静脈による圧迫、複数血管による圧迫、血管圧迫のないもの、脳腫瘍による圧迫などさまざまなパターンがある。これらを細分化して解析を行うことで新たな知見が得られ、病態生理の解明につながる可能性がある。また、人工知能の技術を利用することで、セグメンテーションを手動ではなく自動化し、解析速度と精度の向上が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京科学大学 プレスリリース