SGLT2阻害薬の腎保護効果、アルブミン再吸収とオートファジーに着目して機序を検討
大阪大学は10月21日、SGLT2阻害薬の腎保護作用に関する新しいメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院血液浄化部の松井翔医員(研究当時:大阪大学大学院医学系研究科 博士後期課程)、同大大学院医学系研究科の山本毅士特任助教、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Autophagy」にオンライン掲載されている。
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近年、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく、非糖尿病の慢性腎臓病(CKD)進展を抑制することが明らかになっている。また、大規模なメタ解析から急性腎障害(AKI)の発症を抑制する効果も示され、腎臓病治療において大きな注目を集めている。しかし、その腎保護効果のメカニズムは、糸球体過剰濾過改善をはじめとしてさまざまな説が唱えられているものの、確定的なものはない。また、オートファジーに着目した機序も十分に解明されていない。最近の研究では、尿タンパクの少ない非糖尿病患者においてもSGLT2阻害薬の腎保護効果が示唆されているが、現在まで提唱されてきた機序では幅広い腎保護効果の理由は説明できなかった。
そこで今回研究グループは、近位尿細管におけるメガリンを介したアルブミン再吸収とオートファジーリソソーム系に着目し、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(EMPA)の腎保護作用の機序を検討した。
高脂肪食肥満でリソソーム負担による空胞病変形成、EMPA投与で軽減
高脂肪食2か月モデル(肥満モデル)は、糸球体内圧が上昇する一方で尿タンパクが少ないモデルである。野生型マウスに対して通常食、高脂肪食、高脂肪食+EMPAの負荷を行い、腎臓を評価した。高脂肪食では空胞病変が形成されたが、EMPA投与により改善した。この空胞はリソソームマーカーであるLAMP1陽性でトルイジンブルー陽性であることからリソソーム内リン脂質であることがわかり、高脂肪食肥満によるリソソーム負担は、EMPA投与により軽減していることがわかった。
近位尿細管のメガリン欠損+肥満マウスはアルブミン再吸収増加、EMPA投与で軽減
次に、SGLT2阻害薬は糸球体内圧を下げることが広く知られているため、メガリンを介したアルブミン再吸収量(尿細管への曝露量)がEMPA投与によってどのように変化するかを評価した。タモキシフェン誘導性近位尿細管特異的メガリンノックアウトマウスを作製し、肥満モデルマウスで尿中アルブミンを検証したところ、肥満モデルマウスでアルブミン再吸収量は増加したが、EMPA投与により軽減していることがわかった。
オートファゴソームレポーター+肥満マウス、オートファジー障害認めEMPA投与で改善
続いて、尿細管へのアルブミン曝露が減ったことで、オートファジーがどのように変化するかを評価するために、オートファゴソームをGFP陽性ドットとして可視化できるGFP-LC3トランスジェニックマウスを使用した。正確にオートファジー活性を評価するためにオートファジーを阻害するクロロキンを投与し、肥満マウスの摂食下と24時間絶食下でのGFP-LC3ドットの評価を行った。肥満マウスではオートファジー障害を認めたが、EMPA投与によりオートファジー障害は改善した。
オートファジー不全+AKIモデルマウスから、EMPAの腎保護効果はオートファジー依存的と判明
最後に、EMPAはオートファジー障害を改善させることでAKIに対して腎保護効果を発揮するかどうかを検証するために、タモキシフェン誘導性近位尿細管特異的Atg5ノックアウトマウスを使用し、虚血再灌流傷害によるAKIモデルにおいて評価した。野生型の肥満マウスで虚血再灌流傷害による腎障害悪化を認めたが、EMPA投与により腎障害は改善した。一方、オートファジー不全マウスではEMPAによる腎保護効果は認められなかった。これにより、EMPAはオートファジー依存的に腎保護効果を発揮することが示された。
EMPA、CKD進行抑制の治療薬としても期待
薬剤を用いたオートファジー活性の調整はさまざまな疾患で試みられているが、単純にオートファジー活性を上昇させるだけではリソソームの機能に負担がかかるだけとなり、効果が得られない疾患が多数存在する。今回の研究では、EMPAが単にオートファジーを亢進させるのではなく、リソソーム負担を解除し、オートファジー障害を改善させることで腎保護効果を発揮することが明らかとなった。肥満や糖尿病だけでなく、加齢に伴う腎老化においてもオートファジー障害は生じている。今後、EMPAが幅広いCKD患者において、腎機能低下・透析導入への進行を抑制する治療薬として活用されることが期待される、と研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU