胎児期の水銀ばく露と子どもの性別との関連を疫学的に解析
信州大学は10月11日、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の約4,000人のデータを対象として、胎児期の水銀濃度と子どもの性別との関連について解析し、妊娠中の母親血中水銀濃度と子どもの性別に関連は見られなかった一方、男児においては、さい帯血中水銀濃度が高い傾向があることがわかったと発表した。この研究は、同大医学部衛生学公衆衛生学教室(エコチル調査甲信ユニットセンター)の野見山哲生教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Reproductive Toxicology」に掲載されている。
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている。
過去の研究から、胎児期の水銀へのばく露と子どもの性別との関連が示唆されていたが、結果は一致していなかった。そこで今回の研究では、胎児期の水銀ばく露と子どもの性別との関連を疫学的な手法を用いて調べた。
妊娠中の母親血中と、さい帯血中の水銀濃度を分析
研究では、約10万人の母親のうち、詳細調査に協力した約5,000組の母子を対象とした。その中から、母親の年齢、分娩回数に欠測がある母親を除き、さらに妊娠中の母親の総水銀濃度(無機水銀と有機水銀の総和)、さい帯血中の総水銀、メチル水銀、無機水銀濃度が測定された3,698人のデータを分析に使用した。
子どもの性別については、診療録の転記を用いた。水銀については、妊娠中の母親血中の総水銀、さい帯血中の総水銀、無機水銀、メチル水銀を分析対象とした。関連因子として考えられている母親の年齢および出生回数の影響も考慮した上で、胎児期の水銀濃度と子どもの性別との関連についてロジスティック回帰分析で検討した。
母親血中水銀濃度と子の性別は関連なし、男児はさい帯血中水銀濃度が高い傾向
検討の結果、妊娠中の母親血中の総水銀濃度と子どもの性別との間に明確な関連は見られなかった。その一方、男児においては、さい帯血中の総水銀、無機水銀、メチル水銀濃度が高い傾向が確認された。
「金属類が性比に与える影響を解明するためには、妊娠前の段階で金属濃度を測定しておくことや、妊娠後に流産や死産した胎児の性別を含めて検討する必要がある。これらの点はエコチル調査では検討ができないため、今後、エコチル調査外でのさらなる検討が期待される」と、研究グループは述べている。
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・信州大学 プレスリリース