歩行障害により転倒しやすい病気に特徴的な歩行パターンを客観的に評価するには?
名古屋市立大学は10月7日、ハキム病(iNPH;従来、特発性正常圧水頭症と呼ばれていた病気、以下、ハキム病)、パーキンソン病、頚椎症の歩行中の関節可動域角度と、その連動から各疾患の歩行パターンを鑑別する手法を開発したと発表した。この研究は、同大、滋賀医科大学、東北大学、山形大学、株式会社デジタルスタンダード、信愛会脊椎脊髄センター、産業技術総合研究所人間拡張研究センターとの共同研究によるもの。研究成果は、「Sensors」に掲載されている。
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歩行障害により転倒しやすい病気として、ハキム病やパーキンソン病、頚椎症、脳卒中などが挙げられる。これらの病気に特徴的な歩行パターン、例えば、ハキム病であれば、すり足・小刻み・開脚歩行、パーキンソン病であれば、すり足・小刻み・閉脚歩行、頚椎症であれば痙性歩行、脳卒中であれば片麻痺、ぶん回し歩行が知られており、専門家が診断しているが、主観的な評価であり、評価者によって異なることが課題であった。
先行研究で、スマホ搭載のAIアプリで全身の動きを計測する手法を開発
歩行を含めた動作解析は、従来、全身にマーカーを付けて、複数台のカメラを連動させて、マーカーの動きを3次元的に追跡するモーションキャプチャーシステムが用いられてきたが、これらは煩雑で検査に時間がかかるため、病院や介護の現場では用いることは困難であった。
研究グループは2022年、マーカーを付けることなく、多くの人が保有するスマートフォンで簡単に全身の動きを3次元的に追跡するAIアプリ「TDPT-GT」を開発した。2023年には、全身の3次元相対座標をXYZ空間上に設定し、矢状断面、冠状断面、軸位断面の体軸平面へ投影して2次元相対座標に変換する方法を開発した。さらに、歩行中の下肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病に特徴的な、すり足・小刻み・開脚歩行を定量的に評価する方法を同時に発表した。
アプリを用いて、ハキム病、パーキンソン病、頚椎症患者の歩行データを計測
今回の研究では、上肢の3次元相対座標を2次元相対座標に変換して、ハキム病に加え、パーキンソン病、頚椎症患者の歩行中の四肢の関節可動域角度やその連動を観察した。具体的には、株式会社デジタルスタンダードと共同開発したiPhone用アプリ「Three D Pose Tracker for Gait Test(TDPT-G)」(研究用非公開)を使って、ハキム病患者122人、パーキンソン病患者12人、頚椎症患者93人と健常者200人に直径1mの円を2周歩く様子を計測した。
TDPT-GTアプリのAIで、頭から足先までの全身24点のヘソを中心とした3次元相対座標を自動推定した。この3次元相対座標を矢状断面、冠状断面、軸位断面の体軸平面へ投影した2次元相対座標に変換して、その座標の動作軌跡(75%信頼楕円)に基づいた関節可動域角度を計算した。
上肢と下肢の関節可動域角度やその連動から各疾患の歩行パターンを鑑別することに成功
その結果、矢状断面における股関節や膝関節の可動域角度は、健常者>頚椎症>パーキンソン病>ハキム病の順に小さくなる、つまり足の前後へのふり幅が減少する傾向を認めた。一方、肩関節や肘関節の可動域角度は、健常者>頚椎症>ハキム病>パーキンソン病の順に小さくなる、つまり上肢のふり幅が減少する傾向を認めた。
軸位断面における足の左右への開き幅は、健常者<頚椎症<パーキンソン病<ハキム病の順に大きく、上肢の左右への開き幅は、健常者>頚椎症>ハキム病>パーキンソン病の順に小さくなる傾向を認めた。上肢と下肢の連動が最も強いのは、矢状断面における股関節と肘関節の可動域角度であった。この連動は、健常者>頚椎症>パーキンソン病>ハキム病の順に小さくなる、つまり上肢と下肢の動きがバラバラになりやすい傾向を認めた。
以上の結果から、ハキム病患者はパーキンソン病患者よりも、足の前後へのふり幅が減少することによって、すり足や小刻みになりやすく、左右へ開きやすく(開脚歩行)、上肢との連動が悪い(バランス障害)傾向を認めた。
簡便性に優れる「TDPT-GT」、病院や介護の現場での活用に期待
マーカーレス・モーションキャプチャーやAIスマートフォンアプリ「TDPT-GT」は、従来のモーションキャプチャーシステムよりも簡便性に優れており、病院や介護の現場で定量的な歩行解析を行うことができる。「従来の歩行解析では困難であったハキム病、パーキンソン病、頚椎症、脳卒中など転倒リスクの高い疾患の患者に対して、外来診療前や入院前、施設への入所前に、簡便に歩行の状態や転倒リスクの数値化ができると期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 プレスリリース