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薬剤標的となりうるGPCR、日本人の多様性を5万人のデータから解析-東北大ほか

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2024年10月10日 AM09:00

承認薬の約3割が標的とするGPCR、その多様性研究は副作用低減や個別化医療に有用

東北大学は10月4日、東北メディカル・メガバンク機構の提供する日本人5万4,000人のデータから、薬剤の主要な標的として知られる受容体タンパク質群GPCRについて、個人ごとの差異を探索したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の生田達也助教、鈴木璃子大学院生、井上飛鳥教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Genes to Cells」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの遺伝情報はDNAに記録され、個々の細胞に収納されている。DNAの内容は民族集団や個体ごとに異なり、ヒトの多様性の源泉となっている。ヒトの体を機能させるタンパク質の情報も遺伝子としてDNAに記録されているが、タンパク質をコードする部分のDNAに差異があると、タンパク質のアミノ酸が変わり、タンパク質の機能に変化が生じる。これにより、特定の疾患の原因となったり、薬剤の効果に影響を及ぼしたりすることがある。

現在承認されている薬剤の約3割は、GPCRと呼ばれる種類のタンパク質に作用する。そのため、薬剤標的になっているGPCRの遺伝子の多様性が薬剤の予期しない作用を引き起こすことがある。例えば、GPCRの一種であるμオピオイド受容体の235番目のリシン残基がアスパラギン残基に置換されている(K235N)場合、本来拮抗薬として使われる薬剤が作動薬として働いてしまい、致命的な作用を及ぼす可能性がある。GPCR遺伝子の多様性に対する研究は、このようなまれな副作用リスクの低減や個別化医療に役立つと考えられる。

5万人以上の全ゲノム用い、約400種類の非嗅覚GPCR遺伝子を解析

研究グループは、ヒトゲノムに含まれる約400種類の非嗅覚GPCR遺伝子の多様性に着目し、東北メディカル・メガバンク機構の提供する日本人5万4,000人に由来する全ゲノムリファレンスパネルデータセット54KJPNを解析した。

発見された約130万種の変異のうち約3%がコード領域に存在

その結果、これらのGPCR遺伝子上には約130万種の一塩基置換・挿入・欠失が存在することがわかった。これらのDNA多様性が存在する位置を分類したところ、約3%がタンパク質をコードする領域に、約97%がコードしない領域に由来していることがわかった。さらに、タンパク質をコードする領域に存在する一塩基置換の中では、コドンに記録されたアミノ酸を置換しタンパク質の配列を変えるものが最も多いことがわかった。

翻訳後修飾やシグナル伝達に影響しうるアミノ酸置換の存在も示唆

次に、アミノ酸に変化を及ぼす一塩基置換について詳細な解析を行った。GPCRは7回膜貫通型の構造を共通してもつため、一般残基番号システムと呼ばれるGPCR間で相対位置を比較するアミノ酸残基の番号付け方法がある。このシステムを利用することで、約400種のGPCRでアミノ酸置換がどこに集積しやすいか解析した。その結果、タンパク質のN末端やC末端のループ領域に多く存在していることがわかったため、この部位が関与する糖鎖修飾やリン酸化などの翻訳後修飾に与える影響について検討した。その結果、翻訳後修飾の有無を変えうる一塩基置換が存在し、中には翻訳後修飾を介して下流のシグナル伝達の機能を変えるものがある可能性も示唆された。例えば、てんかんの治療薬の標的として着目されているガラニン受容体1(GALR1)には、アレスチンと呼ばれる別のシグナルタンパク質との相互作用が減弱しうる置換が存在していた。

日本人に特徴的な1アミノ酸置換、健康に影響を及ぼす可能性は低いと予測

続いて、1000ゲノムプロジェクトに由来する世界の他の民族のデータセットとも比較を行い、さらにそれらの健康への影響を評価した。アリルと呼ばれる両親それぞれに由来する2つの遺伝子座を考慮した置換頻度を比較したところ、日本人のもつほとんどの多様性のアリル頻度は他の民族と同等であった。一方、日本人に特徴的なGPCRの1アミノ酸置換の多様性も存在していたため、タンパク質機能に影響があるかどうかをAlphaMissenseと呼ばれる機械学習アルゴリズムによる予測結果を用いて評価した。その結果、これらのほとんどは、健康に影響を及ぼす可能性が低いと判断されることがわかった。ただし、健康に影響を及ぼす可能性が高いと予測されたものであっても、接着GPCR V1(ADGRV1)のG3248D置換のように、臨床的には何の影響もないとされているものも含まれていた。

以上のように、アミノ酸置換を伴う一塩基置換であってもその民族ごとの割合や影響はさまざまである。今回、日本人に存在する無数のアミノ酸置換と過去の知見を結びつけることで、今後の研究で機能に大きな影響がありうる置換を限定することが可能になった。

日本人向けの薬剤開発や個別化医療にも役立つと期待

今回の研究は日本人のもつGPCR遺伝子の多様性を調べ、これまでのGPCR研究の蓄積を生かすことで、その影響について評価した。「今回明らかにしたGPCR遺伝子の多様性は、日本人に向けた将来の薬剤開発や個別化医療に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

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