ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー、MSCsが治療標的として期待
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月7日、筋ジストロフィーモデルマウスに対して、脂肪・骨髄・iPS細胞由来のそれぞれの間葉系間質細胞(MSCs)の細胞治療効果を比較し、iPS細胞由来の間葉系間質細胞(XF-iMSCs)が最も安全かつ効果的な候補となりうることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の櫻井英俊准教授、竹中(蜷川)菜々研究員、後藤萌研究員(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されている。
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ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)は、幼少期に発症する進行性の病気。筋肉の弱さ、関節の過伸展性、および進行性の関節拘縮が特徴だ。この病気は6型コラーゲン(COL6)の遺伝子COL6A1、COL6A2、またはCOL6A3の変異が原因で、筋肉の細胞外マトリックスにおけるCOL6の欠乏または機能不全を引き起こす。現在、UCMDの有効な治療法は確立されていない。
MSCsは筋肉の恒常性を維持し、病的な骨格筋組織においては脂肪細胞や線維芽細胞に分化することが示されている。特に、Col6a1欠損マウスは異常なMSCを持ち、線維化が進行する。そのためMSCはUCMDの治療標的として期待されている。
UCMD治療、各種MSCの有効性・安全性を比較検討
先行研究により、iPS細胞から誘導されたMSC(iMSCs)がCOL6を発現し、Col6a1欠損マウスに投与することで筋肉の再生を促進することを確認。また、動物由来成分を含まない条件下(Xeno-Free)でのiMSCsの誘導を確立し、細胞治療への応用が進められている。この研究では、HLA編集されたiPS細胞から誘導されたxeno-free MSC(XF-iMSCs)を使用した。
他のグループの研究から、Ad-MSCの移植が6型コラーゲン欠損マウスにおいてCOL6を補充することを報告しており、Ad-MSCはその他の疾患において、すでに多くの臨床応用が進んでいる。Ad-MSC以外にも、さまざまな組織から分離されたMSCも他の病気に対する治療法として臨床で利用されているが、iMSCと既存のMSC(脂肪組織由来のMSCs(Ad-MSCs)および骨髄由来のMSCs(BM-MSCs))の違いを比較した研究はない。そこで今回の研究では、他の病気で臨床応用されているMSC(Ad-MSCおよびBM-MSC)とXF-iMSCを比較し、UCMDの治療において最も効果的で安全なMSCを特定することを目指した。
コラーゲン6最多補充はBM-MSC
UCMDモデルマウスの前脛骨筋に、3種類のMSC(Ad-MSCs、BM-MSCs、XF-iMSCs)をそれぞれ移植。移植の1週間後、すべてのMSCで生着が認められ、COL6が補充された。筋肉の総面積に対するCOL6陽性領域の割合は、BM-MSCを移植した群で、他の2種類の細胞を移植した群よりも有意に高くなった。
筋線維再生を最も促したのはXF-iMSC
移植から1週間後の筋線維の再生を比較した。骨格筋再生時に一過性に発現するeMHCは、コントロール群では非常に小径の線維に限られており、筋の成熟が不完全であることが示された。XF-iMSCsを移植した群では、過去の報告と同様に、多核再生筋線維数の増加と筋線維径の増大が認められた。一方、Ad-MSCs移植群およびBM-MSCs移植群では、多核筋線維は観察されたものの、多くの再生筋線維は単核のままだった。
間質拡大を伴う顕著な線維化を認めたのはBM-MSC
移植した細胞が筋肉の病的な線維化に悪影響を及ぼしたかどうかを確認するため、移植12週間後にシリウスレッド染色を行った。BM-MSCs移植群では、間質の拡大を伴う顕著な異所性線維化が認められた。
XF-iMSCではIGF2を介し筋分化を促進
UCMDモデルマウスから取り出した骨格筋幹細胞と各種MSCsを共培養し、筋分化を観察した。その結果、XF-iMSCsが最もmyotubeの形成を促進することがわかった。さらに、XF-iMSCsで高く発現しているIGF2がその形成を促す因子であることに着目。IGF2の発現をノックダウンしたXF-iMSCs(XF-iMSC-KD)を作製し、無処理のXF-iMSCと比較した。
その結果、IGF2をノックダウンしたXF-iMSCではミオシン重鎖陽性の面積が減少し、4つ以上の核を持つmyotubeの形成が抑制された。XF-iMSCでは、IGF2を介して筋分化が促進されていると考えられる。
XF-iMSCs、筋再生促進・線維化回避の有望な細胞治療の候補として期待
臨床応用されている従来の組織由来のMSCと比べて、XF-iMSCは筋線維の再生と成熟を有意に促進し、UCMDの病態改善に寄与することが示された。BM-MSCが深刻な線維化を引き起こしたのに対し、XF-iMSCは移植後24週間でも線維化が認められず、安全性が確認された。さらに、XF-iMSCから分泌されるIGF2が骨格筋幹細胞の分化を促進する可能性が示唆された。BM-MSCでは線維化マーカーの発現が多く、線維化が筋の再生を妨げるとの報告もある。これにより、BM-MSCが治療効果を阻害する可能性が示唆された。以上のことから、XF-iMSCsは筋再生を促進し、線維化を回避する有望な細胞治療の候補であり、他の治療法に比べても安全で効果的なアプローチであると考えられる、と研究グループは述べている。
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・京都大学iPS細胞研究所 プレスリリース