ダウン症やNF1などに併発、一過性脳虚血発作や脳梗塞を呈す
東京女子医科大学は10月7日、さまざまな遺伝性疾患に併発した「もやもや症候群」の患者を解析した結果、肺動脈性肺高血圧症の疾患遺伝子群の機能的レアバリアントが、もやもや症候群の発生にも関わることが新たにわかったと発表した。この研究は、同大総合医科学研究所/メディカルAIセンター/足立医療センター脳神経外科の赤川浩之准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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もやもや病(MMD)は内頚動脈終末部の進行性狭窄・閉塞に、異常な側副血行路(もやもや血管)の代償性発達を伴う多因子疾患である。ダウン症候群や神経線維腫症I型(NF1)等の遺伝性疾患に併発することがあり,その場合を「類もやもや病」あるいは「もやもや症候群」(MMS)と呼ぶ。脳の血流低下により一過性脳虚血発作や脳梗塞を発症したり、もやもや血管の破綻で脳内出血を起こしたりすることもある難病だ。これまで、原疾患の原因遺伝子変異そのものが、MMSの発生にも関わると考えられてきた。しかし、例えばNF1の患者でMMSを発生するのはごく一部にすぎない(約6%)。そのため、原疾患の原因遺伝子変異にプラスして何らかの遺伝的修飾因子が組み合わさるとMMSが発生するのではないか、と考えられるようになっていた。
アジア人・欧州人のMMS患者計13例を全エクソーム解析
研究では、アジア人・欧州人のMMS患者計13例(ダウン症:3例、NF1:6例、ヌーナン症候群:1例、HbH型サラセミア:1例、多系統平滑筋機能不全症候群:2例)を対象に全エクソーム解析を行い、原疾患の遺伝子診断を確定させた後、MMSの発生に関わる修飾因子を探索した。
全13例で原疾患の発症に関わる遺伝子異常を特定した。人工知能等の情報解析技術が有効にはたらき、スプライシングの異常を来す変異や、染色体領域レベルでの増幅や欠失も精度よく検出した。全エクソーム解析では、基本的には点変異や小さな欠失・挿入変異を検出するのが主な目的となるが、リードのマッピングデータを有効に活用して情報解析することで比較的大きな規模の構造変異も検出することが可能だ。
肺動脈性肺高血圧症の疾患遺伝子群の機能的レアバリアントがMMS発症にも関わると判明
修飾因子の探索の結果、MMD自体の感受性遺伝子バリアント、およびMMS基礎疾患遺伝子群(MM遺伝子群)の低機能バリアントが修飾因子となり得ることが判明した。このようなMM遺伝子群バリアントは患者群では53.8%みられたのに対し、一般人口対照では16.7%だった(P=0.003、フィッシャーの正確検定)。
さらに、今回新たに見つかったのが肺動脈性肺高血圧症の遺伝子群(PAH遺伝子群)との関連である。肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、心臓から肺に血液を送る動脈(肺動脈)の一部が狭窄する疾患で、もやもや病において脳血管でみられる病態とも類似する。また、MMDの最も有名な感受性遺伝子RNF213はPAHの疾患遺伝子でもある。PAH遺伝子群の機能的バリアントは患者群で38.2%みられたのに対し、一般人口対照では12.0%だった(P=0.015)。MM遺伝子群で検出されたものは低機能バリアントであったのに対して、PAH遺伝子群から検出されたバリアントのうち4つでは(ABCC8:c.4412-2A>G、SMAD9:p.E30K、BMPR2:p.M356I、PTGIS:p.P500S)、培養細胞による機能解析実験により著明な機能低下が認められた。
今回の研究により、MMSの発症にかかわる遺伝学的なメカニズムの一端が解明され、PAH遺伝子群については有望な治療ターゲットになりうると考えられた。「すでにPAHの患者では疾患遺伝子をターゲットにした複数の薬剤が使用できるようになっているが、これまで有効な薬物治療法がなかったMMS患者へも適応できる可能性がある。多くの患者を対象にした研究により、さらなる知見の集積が望まれる」と、研究グループは述べている。
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