薬物療法による子宮筋腫の縮小効果は患者により差が大きいことが判明していた
山口大学は9月27日、子宮筋腫の治療方針の決定に役立つ新たな診断システムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の産科婦人科学講座(爲久哲郎助教、杉野法広教授ら)と放射線医学講座(田辺昌寛准教授、伊東克能教授)の研究グループによるもの。研究成果は、「Obstetrics & Gynecology」に掲載されている。
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子宮筋腫は成人女性の約30%と高い頻度で発症する良性腫瘍。症状としては月経痛、過多月経、貧血等を引き起こし、さらに不妊症や流産の原因にもなる。このように、子宮筋腫は女性のQOLを著しく低下させるだけでなく、少子化が進む日本にとっては看過できない疾患だ。
子宮筋腫の治療法は主に手術療法と薬物療法に分けられる。根治のためには手術療法が必要だが、近年の晩婚化や妊娠の高齢化のため妊娠ができる状態で子宮を保つことができる薬物療法の必要性が増している。子宮筋腫は女性ホルモンによって増大するため、薬物療法には女性ホルモンの働きを阻害したり、分泌を抑制する作用を持つ治療薬を使用する。薬物療法による子宮筋腫の縮小効果は患者により差が大きく個人差があることが判明しているが、その原因に関してはこれまで明らかにされていなかった。薬物療法の効果が十分に得られなかった場合、その患者にとっては治療期間としてかかる数か月が無駄になってしまう。特に不妊の患者にとっては、不妊治療のための貴重な時間を失うことになる。
近年、子宮筋腫の発症・進展に関与する遺伝子変異として、Mediator complex subunit 12(MED12)遺伝子の変異が注目されている。子宮筋腫は、このMED12遺伝子の変異があるもの(MED12(+)筋腫)と変異のないもの(MED12(-)筋腫)の少なくとも2つの種類(サブタイプ)に分類される。これらの子宮筋腫のサブタイプ間で薬物療法による縮小効果を比べた結果、MED12(-)筋腫の方がMED12(+)筋腫よりも縮小効果が高いことがわかった。他の文献においても同様の結果が報告されている。さらに最近、子宮筋腫のサブタイプ間で組織構成や女性ホルモンの感受性が異なることが報告された。サブタイプ間でこのような違いがあることが、薬物療法の効果の差に関係していると考えられる。そのため、患者が持つ子宮筋腫のサブタイプが、あらかじめ非侵襲的に診断できれば、より適切な治療方針の決定に役立つと考えられる。そこで今回の研究では、MRIの画像情報と人工知能(AI)の手法を用いることで子宮筋腫のサブタイプを非侵襲的に診断する方法の開発を試みた。
2つ以上のMRI値を組み合わせることで、高精度の子宮筋腫サブタイプ診断に成功
手術前の患者に対して、子宮筋腫のサブタイプの診断に有用と考えられる複数のMRIの撮影方法(MRIシーケンス)で撮影を行い、子宮筋腫のシグナル強度を数値化した。次に、摘出した子宮筋腫検体についてMED12変異の有無を調べ、サブタイプを特定した。2つのサブタイプ間でMRIの値を比較した結果、5つのMRIシーケンスで有意な差が認められ、サブタイプの診断に有用なものとして選出した。これらのMRIシーケンスは単独で用いても高い診断精度を有していたが、組み合わせて用いることで、より診断精度が高くなると考えた。
そこで、子宮筋腫の5つのMRIシーケンスの値の組み合わせと子宮筋腫サブタイプの情報を、AIの一種である機械学習の手法を用いて学習させることにより、MRIの値から子宮筋腫サブタイプを診断する診断システム(予測モデル)を作成した。予測モデルの診断精度を評価した結果、2つ以上のMRIの値を組み合わせて用いることで100%の精度で子宮筋腫サブタイプを正しく診断することができた。このように機械学習の手法により複数のMRIの値を組み合わせて用いることで、極めて高い診断精度を持つ子宮筋腫サブタイプの予測モデルを開発することができた。
患者・筋腫ごとの適切な治療方針の決定が可能になることに期待
本研究で開発した予測モデルを用いて子宮筋腫のサブタイプを非侵襲的にかつ高精度に診断することで、患者あるいは筋腫ごとの適切な治療方針の決定が可能になることが期待される、と研究グループは述べている。
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・山口大学 プレスリリース