ステント再狭窄は全患者の約5~10%で発生
東京医科大学は10月1日、心筋梗塞におけるステント留置の後期合併症であるステント内再狭窄に、プロスタグランディンE(PGE2)受容体EP4シグナルによる糖タンパク質であるfibulin-1の産生亢進が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大細胞生理学分野の横山詩子主任教授、救急・災害医学分野の奥村滋邦助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Research」に掲載されている。
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血管再狭窄は、バルーン血管形成術やステント留置術などの機械的損傷に対する創傷治癒反応です。シロリムスなど血管平滑筋の細胞増殖を抑える薬剤をステントに塗布した薬剤溶出ステント(DES)は再狭窄の割合を大幅に減少した。しかし、ステント再狭窄は依然として全患者の約5~10%で発生しており、再狭窄後の根本的な治療がないこと、再狭窄がおこるメカニズムが完全に解明されていないことが問題となっている。
血管再狭窄を増悪するPGE2の下流にあるEP4に着目
PGE2が血管再狭窄を増悪することは知られており、その産生酵素であるCOX-2の阻害は動物およびヒトにおいて内膜肥厚形成を抑制する。しかし、COX-2阻害薬は胃潰瘍や血栓性塞栓などの心血管系への副作用のため治療薬として長期に用いることはできない。そのため新たな治療戦略としてPGE2よりさらに下流のメカニズム、つまりPGE2受容体とその作用機序を解明することで副作用が少なく、かつ内膜肥厚を抑制する薬を開発できる可能性があると考えた。
血管傷害部位ではプロスタグランディンEが産生されていることが知られているが、その受容体の時空間的な発現パターンは明らかにされていなかった。研究グループはPGE2の下流にあるEP4に着目し、EP4の時空間的発現、さらにその下流にある分子メカニズムを解明することを目的に検討した。
PGE2<EP4<fibulin-1<TGF-β/Smad3<血管平滑筋細胞の遊走増殖<内膜肥厚形成
EP4レポーターマウス(Ptger4-IRES-nlsLacZ)を新たに作製し、EP4の発現を可視化した。大腿動脈ワイヤー損傷後2週で、内膜肥厚部の血管平滑筋細胞にEP4が高発現することを見出した。この時期は平滑筋細胞の増殖により内膜肥厚形成が亢進している。また、網羅的遺伝子解析より血管平滑筋細胞においてPGE2-EP4刺激はfibulin-1を顕著に増加していることがわかった。
さらに、EP4ヘテロ接合体欠損マウス(Ptger4fl/+;SM22-Cre)、EP4過大発現マウス(Ptger4-Tg)、Fibulin-1欠損マウス(Fbln1fl/fl;SM22-Cre)を用いることで、血管傷害部位で産生されるPGE2はEP4を刺激してfibulin-1を増加させ、TGF-β/Smad3シグナルを介して血管平滑筋細胞の遊走増殖を促進させて内膜肥厚形成を促進することを明らかにした。
EP4阻害薬、野生型マウスへの経口投与で血管傷害後の内膜肥厚を減少
EP4阻害薬の経口投与は、野生型マウスの血管傷害後の内膜肥厚を減少させることもわかった。薬剤溶出ステントの進歩は、血管の内膜肥厚形成の減少に大きく貢献しているが、治療効果は十分とはいえない。「今回の研究によりEP4アンタゴニストの経口あるいは局所投与、fibulin-1のダウンレギュレーションは内膜肥厚形成を抑制する新たな治療戦略となる可能性が示された」と、研究グループは述べている。
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