母乳育児は乳児の喘息リスクを低下させる
生後1年間を母乳で育てると、乳児の体内に健康に有益なさまざまな微生物が定着し、喘息リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究によると、生後3カ月を超えて母乳育児を続けることにより、乳児の腸内微生物叢の段階的な成熟が促されることが示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のLiat Shenhav氏らによるこの研究結果は、「Cell」に9月19日掲載された。
画像提供HealthDay
母乳には、健康に寄与する腸内微生物の増殖を促進するさまざまな栄養素が含まれている。乳児期における母乳育児と微生物の定着は、乳児の発達にとって重要な時期に行われ、どちらも呼吸器疾患のリスクに影響を与えると考えられている。しかし、母乳育児の保護効果や微生物の定着を調節するメカニズムについては、まだ十分に理解されていない。
今回の研究では、CHILDコホート研究に参加した2,227人の乳児を対象に、生後3カ月時と1歳時の鼻腔および腸内の微生物叢、母乳育児の特徴(完全母乳/混合育児/粉ミルク)、および母乳成分の調査を行い、母乳育児が腸内微生物の定着に与える影響、さらにその定着の仕方が呼吸器疾患リスクに与える影響を検討した。
その結果、生後3カ月を超えて母乳育児を行うと、乳児の腸内および鼻腔の微生物叢が徐々に成熟することが示された。逆に、生後3カ月未満で母乳育児をやめると、微生物叢の発達ペースが乱れ、就学前の喘息リスクが上昇することが明らかになった。例えば、生後3カ月未満で母乳育児をやめた乳児の腸内には、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)と呼ばれる細菌種が非常に早期の段階から認められたという。R. gnavusは、喘息などの免疫系の問題に関連するアミノ酸であるトリプトファンの生成と分解に関与していることが知られている。
研究グループはさらに、微生物の動態と母乳の成分に関するデータを用いて、喘息リスクを予測する機械学習モデルを構築し、さらに因果関係を特定するための統計モデルを用いて、母乳育児が乳児の微生物叢の形成を通じて喘息リスクを低下させることを確認した。
研究グループによると、母乳には、ヒトミルクオリゴ糖(母乳に含まれるオリゴ糖の総称)と呼ばれる独自の成分が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖は、特定の微生物の助けを借りなければ乳児の体では消化できないため、これらの糖を分解できる微生物は、腸内での生存競争において優位性を得ることになる。一方、生後3カ月未満で断乳して粉ミルクで育てた場合には、粉ミルクの成分を消化するのに役立つ別の微生物群が増加する。これらの微生物の多くは、最終的には全ての乳児の腸内や鼻腔に定着するようになるものの、早期に定着した場合には喘息リスクが増加するのだという。
Shenhav氏は、「ペースメーカーが心臓のリズムを調整するのと同じように、母乳育児は乳児の腸内と鼻腔に微生物が定着するペースと順序を、秩序正しく適切なタイミングで起こるように調節している」と説明する。同氏はさらに、「健康な微生物叢の発達には、適切な微生物が存在するだけでは不十分だ。適切なタイミングと順序で微生物が定着することも必要なのだ」と付け加えている。
Shenhav氏は、「本研究結果は、母乳育児が乳児の微生物叢に及ぼす重大な影響と、呼吸器の健康をサポートする上での母乳育児の重要な役割を浮き彫りにしている。われわれは、この研究で実証されたように、母乳の保護効果の背後にあるメカニズムを解明し、データに基づき母乳育児と断乳に関する国のガイドラインを策定することを目指している」と述べている。同氏はまた、「さらに研究を重ねることで、本研究結果は、母乳育児の期間が3カ月未満だった乳児の喘息を予防する戦略の開発にも貢献する可能性がある」との見方も示している。
Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。
Photo Credit: Adobe Stock