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筋ジストロフィー、細胞療法を長期評価する新手法を開発-CiRA

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2024年10月01日 AM09:10

DMD細胞療法の運動機能改善効果について、信頼性のある基準での評価を目指す

)は9月25日、筋ジストロフィーの細胞治療効果を長期的に高精度に評価する新しい方法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院生の吉岡クレモンス紀穂氏(CiRA臨床応用研究部門)、竹中菜々研究員、櫻井英俊准教授(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)は、男性新生児5,000人に1人程度の割合で見られる遺伝性神経筋疾患。徐々に患者の筋力は低下し、筋肉の易疲労性が進行する。これにより、心肺機能や歩行機能が悪化する。DMDの原因遺伝子は、ジストロフィンというタンパク質をコードしている。DMD患者の骨格筋では、損傷や線維化が蓄積し、筋肉全体の萎縮を引き起こすと報告されている。しかし、ジストロフィンの欠乏が運動機能の低下を引き起こすメカニズムはまだ完全には解明されていない。現在、ステロイド療法とリハビリテーションがDMDの一般的な治療法として用いられる。一方、治療効果は進行を遅らせるのみで、副作用がある。アンチセンス媒介のエクソン・スキッピングや遺伝子治療が試みられているものの、いずれも完全な治療法には至っていない。

現在、再生医療は新たな治療法として浮上しており、正常なジストロフィンを持つ筋前駆細胞を用いた細胞移植が注目されている。これまでの研究では、DMDモデルマウスの筋肉において、ジストロフィンタンパク質の補充により筋肉機能の改善が報告されているが、一貫した方法による評価はなされてなかった。また、筋肉が持つ最大の収縮力などを指標として測定されてきたが、必ずしも患者の生活の質を向上させるための指標とは一致しなかった。同研究では、細胞療法がDMD患者の運動機能改善効果を持つかどうか、信頼性のある基準で評価することを目指した。

DMDモデルマウスへのジストロフィン補充効果をMCTで評価、13~33週で有意な改善なし

DMDモデルマウスにおけるジストロフィン補充の効果を評価するため、健康なヒトの不死化させた筋芽細胞(Hu5/KD3)を移植して筋力を測定した。13週~33週にわたる評価では、DMDマウス(DMD)は筋力の指標として使用される最大収縮トルク(MCT)で、野生型マウス(WT)に劣った。ジストロフィン補充したDMDマウス(DMD+Dys)と未治療群(DMD)の間に、有意差は見られなかった。これは、DMDマウスの筋力低下がジストロフィン補充によって劇的に改善されなかったことを示唆している。

ジストロフィン補充での筋疲労耐性については、33週齢までにわたり回復効果を確認

筋疲労耐性の改善を評価するため、トレッドミルランニング(TMR)法を使用。マウスは13週齢~21週齢まで、4週間ごとに、1分間に9メートルの早さで15分間ランニングした。ランニング直後の筋力をMCTで測定し、休息時のMCTと比較し、筋疲労耐性(Muscle fatigue ratio)を測定した。

21週齢のDMDマウス(DMD)ではランニング後のMCTが著しく低下し、筋疲労耐性も低下したが、ジストロフィンを補充したDMDマウス(DMD+Dys)はMCT減少が抑制され、筋疲労耐性も高く保たれた。さらに、33週齢までの長期評価においても、ジストロフィン補充グループは筋力維持と疲労耐性の改善が認められた。これにより、ジストロフィン補充がDMDモデルマウスにおける筋疲労耐性の改善に寄与することが示された。

免疫染色・筋線維タイプの評価・ATP測定でジストロフィン補充の有効性が示唆

MCTの測定を行った後、21週齢のマウスの筋組織を採取し、免疫組織染色を行った。DMDマウスではジストロフィンが検出されなかったが、細胞移植を行ったDMDマウスでは、ジストロフィンが補充されていることを確認した。21週時点でのジストロフィン補充率は10.6%であり、ジストロフィン陽性筋線維の数とMCTの間に正の相関が見られた。さらに、ジストロフィン補充された筋線維の数が10%以上の場合、重度の筋力低下を防ぐ効果があることがわかり、ジストロフィン補充の有効性が示唆された。

筋線維には瞬発力を持つタイプの筋線維「速筋」と、持久力に優れた筋線維「遅筋」がある。そこで細胞移植により、筋線維タイプの組成に変化があるかどうかを調べた。ジストロフィンを補充したDMD筋では、持久力に優れるタイプI筋線維およびタイプIIA筋線維が、有意に増加していることが明らかになった。

生きた状態でATPを測定できるATPtg DMDマウスを使用して、筋疲労を作成する40%の最大収縮強度で電気的に刺激された繰り返し等尺性収縮(RIC)中に、マウスの腓腹筋の画像を撮影した。連続した画像の定性的分析では、全腓腹筋に高いATPレベルを示したATPtg WTマウスに対して、ATPtg DMDしマウスの筋肉のATPレベルが低いことが示された。未処置のATPtg DMDマウスと比較して、ジストロフィンを補充したATPtg DMDの筋肉は、ATP活性の増加を示した。

ジストロフィン10%以上補充で重度の筋力低下を防ぐ可能性、治療法開発に期待

DMDマウスモデルを用いた細胞移植研究において、運動機能を向上させるジストロフィン補充療法の長期的な有効性を確認する新たな評価方法を確立した。ジストロフィンの補充によりDMDマウスの筋疲労耐性が著しく改善され、さらにジストロフィンが10%以上補充されたときには、重度の筋力低下を防ぐことができることがわかった。この機能改善は、細胞移植後にジストロフィン陽性筋線維が優先的に再生し、筋損傷に対する保護特性を持つだけでなく、持久性筋線維の特徴である、高いミトコンドリア活性による酸化的リン酸化を主なエネルギー源として活用する代謝機能が寄与したためと考えられる。同研究により見出した新たな評価方法は、DMDの細胞移植医療の臨床応用に貢献すると期待している、と研究グループは述べている。

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