フェブキソスタット使用は心血管イベント発生率が高い?
横浜市立大学は9月25日、尿酸生成抑制薬(XOR阻害薬)のアロプリノールとフェブキソスタットおよびXOR阻害薬非使用の生命予後と心血管イベント発生に対する効果を比較する解析を行い、生命予後に関しては2種の尿酸生成抑制薬間で差が見られなかった一方、心血管イベントに関してはアロプリノールでは薬剤非使用と比較して抑制効果が見られたもののフェブキソスタットによる抑制効果は認められなかったことがわかったと発表した。この研究は、同大医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室の石井健夫客員准教授(善仁会横浜第一病院副院長)、涌井広道准教授、田村功一主任教授、善仁会横浜第一病院の吉村吾志夫院長、東京医科大学医療データサイエンス分野の田栗正隆主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney Medicine」にオンライン掲載されている。
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研究グループは2017年に透析患者におけるXOR阻害薬の使用は生命予後を改善するという研究結果を発表している。一方、2018年に米国食品医薬品局およびそれを受けて厚生労働省の第4回安全対策調査会より、「メタボリックシンドロームの高尿酸血症患者に対するXOR阻害薬のフェブキソスタットの使用は心血管イベントの発生率が高いのではないか」と、フェブキソスタットの処方に関する安全注意文書が発出されたが、その原因は不明だった。
6,791人対象、アロプリノール/フェブキソスタットをXOR阻害薬非使用と比較
今回研究グループは、6,791人の透析患者を対象に、アロプリノールとフェブキソスタットおよびXOR阻害薬非使用の生命予後と心血管イベント発生に対する効果を比較する解析を行った。患者のイベント発生、検査所見、合併症、併用薬などが経時的に記録されている透析データシステムを用いて、2016~2019年の3年間の縦断的データを解析した。解析手法としては、時間とともに処方内容が変化する際に生じる問題である時間依存性交絡を調整して、処方とイベント発生の因果関係を明らかにすることを目的とした周辺構造モデルを用いた。解析はすべて統計ソフト「SAS(R)」を使用した。
腎/腸管のABCG2を強く阻害するフェブキソスタットでは心血管イベント抑制効果見られず
その結果、死亡に対しては、アロプリノールとフェブキソスタットの両方が非治療群よりも有意に良好な生存を示した。また、心血管イベントに対しては、アロプリノールには有意な抑制効果が見られた(HR:0.89、95%CI:0.84-0.95)一方で、フェブキソスタットには抑制効果が認められなかった(HR:1.01、95%CI:0.96-1.07)。
2種の尿酸生成抑制薬間で心血管イベント抑制効果に違いが認められた要因として、フェブキソスタットが尿毒症性物質の排泄トランスポーター(adenosine triphosphate-binding cassette transporter G2:ABCG2)を、強く阻害する作用を有することが考えられた。ABCG2はヒトの腸管上皮細胞および腎臓尿細管上皮細胞に発現する尿酸や尿毒症性物質、薬剤を排泄するトランスポーターであるが、日本人はABCG2の機能低下型遺伝子多型の頻度が高いことが知られており、健康診断で若年から高尿酸血症を指摘されることも多いとされている。今回は腎機能が廃絶した透析患者に対する解析結果のため、フェブキソスタットが腸管のABCG2を阻害したことによる排泄抑制効果と推測された。また、健康診断で指摘された一般の高尿酸血症治療でも、XOR阻害薬による酸化ストレス抑制とともにABCG2の排泄機能を保持する治療戦略が将来の心血管イベント抑制および腎機能保持につながることを示唆した点でもこの研究成果は重要だ。
日本人に多い機能低下型ABCG2遺伝子多型を考慮した治療の検討が必要
フェブキソスタットは抗がん剤と併用し、抗がん剤の排泄を抑えて治療効果を高めるために併用されるほど、ABCG2の抑制効果が高い。このため尿毒症性物質の排泄経路が腸管か透析に限られている透析患者で、フェブキソスタットが腸管のABCG2を強くブロックし尿毒症性物質の蓄積によって臓器保護効果はなかったものと考えらえる。これは、腎機能の保持されている高尿酸血症や痛風患者から慢性腎臓病患者まで同様の抑制効果が疑われる。
「日本人に多い機能低下型のABCG2遺伝子多型の患者について、将来のリスクを自覚し、ABCG2を阻害しない尿酸生成抑制薬や尿酸排泄促進薬の併用を推進していくべきだと考えられる。健康診断で高尿酸血症を指摘された場合、ABCG2の遺伝子多型の検査をして病型分類をし、痛風発作の抑制だけではなく将来の心血管イベントや腎不全への進展を予防していくべきであるとも考えられる。さらに、ABCG2を抑制せず慢性腎臓病でも使用制限のない尿酸生成抑制薬の開発も期待される」と、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース