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がん個別化医療による生存期間の延長、4,000人以上の大規模研究で確認-国がんほか

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2024年09月19日 AM09:10

リキッドバイオプシーを用いたがん個別化医療は実際に生存期間を延長するのか

国立がん研究センターは9月17日、 GOZILAプロジェクトに参加した4,037人の進行がん患者を対象に、リキッドバイオプシーに基づく個別化治療の効果を調査したと発表した。この研究は、同センター東病院の吉野孝之副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がん治療において、患者一人ひとりの遺伝子情報に基づいたがん個別化医療が近年注目されている。このがん個別化医療を実現する手法の一つとして、血液検査で腫瘍のDNAを調べるリキッドバイオプシーが期待されている。

リキッドバイオプシーは、従来の組織生検と比べて、患者の負担が少なく繰り返し検査が可能である、体の色々な場所にあるがんの特徴を同時に調べられる、という利点がある。しかし、これまでこのリキッドバイオプシーを使った治療が、実際に患者の役に立つのかどうかは、まだはっきりとわかっていなかった。特に、この方法で治療を選んだ場合に、患者がどのくらい長く生きられるようになるのかについては、十分な証拠がなかった。

SCRUM-Japan GOZILAプロジェクトにおけるリキッドバイオプシーの有効性を確認

同センター東病院が推進する産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクトSCRUM-Japan MONSTAR-SCREENの一部として開始したSCRUM-Japan GOZILAプロジェクトは、リキッドバイオプシーを使って、できるだけ多くの患者に適切な治療を届けることを目指し、2018年から多くの患者の協力を得て進められてきた。

そこで今回、SCRUM-Japan GOZILAプロジェクトで行われた治療の効果を調べた。この調査を通じて、身体への負担が少ない液性検体(血漿や尿など)を利用するリキッドバイオプシー(遺伝子解析)を使って選んだ治療()が、実際に患者の役に立っているかどうかを確認した。

参加者4,037人のうち、24%がその人に適合した標的治療を受けたと確認

研究グループは、SCRUM-Japan GOZILAプロジェクトに参加した4,037人の進行がん患者を対象に、リキッドバイオプシーに基づく個別化治療の効果を調査した。

まず、患者から採取した血液サンプルを用いてリキッドバイオプシーを実施し、がんの遺伝子情報()を調べた。リキッドバイオプシーには、血液検体を用いた包括的がんゲノムプロファイリングGuardant360(R)CDx がんゲノムプロファイル(がん遺伝子パネル検査)を用い、がんに関連する74個の遺伝子を分析した。次に、リキッドバイオプシーの結果に基づいて、患者に適した標的治療を選択した。これにより、従来の方法では見つけられなかった治療の選択肢を提供できる可能性が広がった。そして、治療を受けた患者の経過を追跡し、治療効果や生存期間を詳細に分析した。

研究の結果、参加者の24%が、リキッドバイオプシーの結果に基づいて、その人に適合した標的治療を受けることができた。これは、リキッドバイオプシーが多くの患者に新たな治療の機会を提供できることを示している。

リキッドバイオプシーに基づいた治療、生存期間約2倍に

さらに重要な発見として、リキッドバイオプシーに基づいて標的治療を受けた患者は、そうでない患者と比べて、生存期間が約2倍長くなることが明らかになった。具体的には、標的治療を受けた患者の生存期間の中央値は18.6か月であったのに対し、そうでない患者は9.9か月だった(ハザード比0.54)。この結果は、リキッドバイオプシーを用いた個別化治療が、患者の生存期間を大幅に延ばす可能性があることを示している。また、治療につながるバイオマーカーが見つからなかった患者(生存期間中央値:16.8か月)も、バイオマーカーがあったにも関わらず適合する治療を受けなかった患者より生存期間が長いことがわかった(ハザード比0.60)。この結果は、遺伝子の変化が時に治療の抵抗性に関わることを考えると、バイオマーカーが無かった患者はそのような治療抵抗性に関わる遺伝子の変化も無かったことが長い生存期間につながっている可能性を示唆している。また、一部の患者では血液内に腫瘍DNAが出ておらずリキッドバイオプシーでバイオマーカーが見つけられない場合があるが、そのような場合も生存期間が長いことが知られている。

「遺伝子変異のクローナリティ」「補正血漿コピー数」高い症例で治療効果高いと判明

また、今回の研究ではリキッドバイオプシーで見つかったバイオマーカーの特徴も詳しく分析した。その結果、遺伝子変異のクローナリティ(がん細胞全体に占める変異を持つ細胞の割合)や補正血漿コピー数(血液中のがん由来のDNA量で補正した遺伝子の血漿コピー数)が高い症例で治療効果がより高いことがわかった。この発見は、将来的により精密な治療選択につながる可能性がある。

これらの結果は、リキッドバイオプシーを用いたがんの個別化治療が、患者の生存期間を延ばすのに役立つことを科学的に示している。今回の研究は、リキッドバイオプシーに基づくがん個別化治療の生存期間延長効果をさまざまながんで大規模に示した初めての研究であり、今後のがん治療の進歩に大きく貢献することが期待される。

最適化された個別化治療がより多くの患者へ提供されることにつながると期待

この研究の成果は、がん治療のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めている。リキッドバイオプシーを用いたがん個別化治療の有効性が科学的に示されたことで、今後のがん医療の方向性が示唆された。

まず、リキッドバイオプシーの臨床応用がさらに広がることが期待される。本技術の有用性が確立されれば、より多くの患者に最適化された個別化治療を提供できる可能性が高まる。

また、今回の研究で示唆されたバイオマーカーの特徴(クローナリティや補正血漿コピー数)と治療効果の関連性について、さらなる研究が進めば、より精密な治療効果の予測が可能になるかもしれない。

一方で、いくつかの課題もある。例えば、リキッドバイオプシーの検査コストの低減や、検査結果の解釈に関する医療従事者の教育、保険適用の拡大などが重要な課題となる。

SCRUM-Japan MONSTAR-SCREENプロジェクトでは、新たな大規模研究「MONSTAR-SCREEN-3」が計画されている。この研究では、対象を進行固形がんの患者だけでなく、治癒切除が可能な早期の固形がんの患者や血液腫瘍(血液がん)の患者にも広げ、リキッドバイオプシーを含めた最先端のマルチオミックス解析が行われる予定である。「今後も世界最先端の解析を活用し、世界中のがん患者に有効な治療法を届けられるよう、がん個別化医療の発展に全力で取り組んで行く」と、研究グループは述べている。

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