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オートミール混入ヒラタチャタテ摂取によるアナフィラキシー、国内初症例-東邦大ほか

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2024年09月17日 AM09:20

アナフィラキシー患者が摂取したオートミール中に多数の虫体を確認

東邦大学は9月9日、オートミールに混入したヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)の摂取によるアナフィラキシーの症例を日本で初めて報告したと発表した。この研究は、同大医療センター大橋病院皮膚科の福田英嗣准教授、松本千夏助教、東京家政大学の川上裕司研究員、大阪公立大学の石橋宰准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Dermatology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ダニなどの害虫は室内環境におけるアレルゲンとして、アレルギー性喘息などの気道疾患の原因となること、さらに、害虫に汚染された食品を経口摂取した後にアナフィラキシーを発症することはこれまで報告されている。

今回、研究グループは、オートミールに混入していたヒラタチャタテの経口摂取によるアナフィラキシーを、日本で初めて報告した。具体的には、2021年3月に東邦大学医療センター大橋病院において、オートミールと、その他の食品を経口摂取した30分後に全身に紅斑が出現し、水様性下痢や嘔吐を伴う症例を経験した患者だった。来院時に頻脈、血中酸素飽和度の軽度低下、全身に紅斑と口唇のチアノーゼが認められ、アナフィラキシーと診断した。

原因を特定するため、摂取した食品でプリックテストを行ったところ、オートミールだけが陽性反応を示した。しかし、新品の同製品では陽性反応を示さなかったため、摂取したオートミールを顕微鏡で観察したところ、多数の虫体が混入していることが確認された。

オートミール中にヒラタチャタテ特異的抗原Lipb1、患者血清に特異的IgE抗体検出

研究グループが定量的PCR法とウェスタンブロット法を用いて詳しく調べたところ、患者が摂取したオートミール中にチャタテムシ目ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)の特異的抗原であるLipb1および同抗原をコードする遺伝子配列を検出し、さらにウェスタンブロット法によりLipb1抗原を検出し、ELISA法により患者血清中にLipb1特異的IgE抗体を検出した。これらの結果から、オートミールに混入したヒラタチャタテの経口摂取がアナフィラキシーの原因であると結論付けた。

室内環境におけるヒラタチャタテのアレルゲンとしての重要性を提示

ヒラタチャタテは世界中の屋内環境に生息しており、穀類や微粉末食品などを直接食害する。これまでの研究で、ヒラタチャタテは室内塵の99%から検出され、小児気管支喘息患者の重要な吸入性アレルゲンであることが指摘されているが、経口摂取によるアナフィラキシーの報告は国内で本症例が初めてとなった。海外を含め初めて、Lipb1抗原および患者血清中Lipb1特異的IgE抗体を検出したことにより、その原因がヒラタチャタテであると特定した初の報告である。

発症のメカニズムについては、2つの可能性が考えられた。第一は、患者が生活環境の中でヒラタチャタテの粉末状になった死骸を吸入または接触することによってアレルゲンとして感作され、その後ヒラタチャタテを経口摂取することによってアナフィラキシーを発症した可能性である。第二は、患者が過去にヒラタチャタテを経口摂取したことによりアレルゲンとして感作され、アナフィラキシーを発症した可能性である。本症例は、喘息などの呼吸器症状がないことから、後者であると推察された。

日常生活においてヒラタチャタテは、ハウスダストが蓄積した室内環境で発生しやすい一方で、0℃以下の温度や55~65%以下の湿度では生育できないため、定期的な換気や天日干しなどの環境対策が重要だ。特に、汚染されやすい保存食品は密閉容器に入れて冷蔵保存するなどの対策が必要だ。また、殺虫剤の使用も選択肢のひとつとなるが、室内環境における害虫の防除には、環境改善や湿度管理などの総合的病害虫管理(Integrated Pest Management ; IPM)に基づく対策も不可欠だ。

「オートミール症候群」という新たなアレルギー概念を提案

ダニを摂取することで発症する「パンケーキ症候群」に比べ、チャタテムシを摂取することで発症するアレルギーはあまり知られていない。しかし、日本人のアレルギー性喘息患者を対象とした皮内テストでは、ヒラタチャタテアレルゲンの陽性率は42%、すなわち約4割のアレルギー性喘息患者でヒラタチャタテアレルギーがあることが示されている。本症例および既報告2例(海外例)では、全てチャタテムシがオートミールに混入していたため、研究グループは、「オートミール症候群」という新たなアレルギー概念を提案した。

「研究成果は、アレルギー疾患の予防と室内環境管理に新たな視点を提供し、公衆衛生の向上に貢献することが期待される。特に、オートミールなどの穀物製品の保存方法や、室内環境の管理に関する注意喚起につながることを期待する」と、研究グループは述べている。

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