MRI装置内で、短時間で明瞭な匂い刺激をすることは困難
実中研は8月1日、コモンマーモセット(以下、マーモセット)が匂いを嗅いだときの脳の活動をMRIで観察するための装置を開発したと発表した。この研究は、同所マーモセット医学生物学研究部の圦本晃海主任、関布美子主任、佐々木えりか部長、旭川医科大学の井上雄介准教授、東北大学の岡島淳之介准教授、公立小松大学の山田昭博准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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アルツハイマー病やパーキンソン病などの病気では認知機能が低下する前から嗅覚が傷害されることが知られている。そのため、嗅覚機能の評価はこれらの病気の初期のバイオマーカーになると考えられている。
これらの疾患のモデル動物としても霊長類の実験動物であるマーモセットは利用されている。マーモセットは体が小さいため、高磁場のMRI装置を用いて高解像度で脳を調査することができるメリットがある一方で、MRI装置の内部は狭く、MRI装置内でさまざまな実験を行うことは困難だった。また、嗅覚は同じ匂いを嗅ぎ続けると匂いを感じなくなる「嗅覚適応」が起こる。そのため、匂い刺激の提示は短時間に限定して行う必要があったが、狭いMRI装置の中では短時間で明瞭な匂い刺激をすることが難しく、嗅覚刺激時の脳の活動はあまり研究されていなかった。
チューブを取り付けたことでMRIの外から自由に強い匂いの刺激が可能に
研究グループの開発した匂い提示システムは、嗅覚刺激物質の提示用と吸引用の2本のチューブと提示チューブ内のバルーンバルブから構成される。提示用チューブの出口の直前にバルーンバルブを設置し、MRIの外からバルーンの動きを制御可能にした。これにより、30秒間の刺激を5分間隔で5回繰り返すなど、自由に強い匂いの刺激が可能になった。
開発した嗅覚刺激システムについて、模擬システムおよびマーモセットの機能的MRI実験(fMRI)で検証したところ、匂いがMRI内部に滞留していないことが示された。さらに、fMRIの信号解析の結果、嗅覚に関連する8つの領域で、嗅覚刺激後30秒以内に信号値が増加することが示された。
霊長類における嗅覚機能障害と認知症の関係解明に役立つ成果
8つの領域にはアルツハイマー病やパーキンソン病に関連する領域が含まれていた。「今回開発した嗅覚刺激fMRIシステムと、さまざまな疾患モデル動物を持つマーモセットの特性を組み合わせることで、霊長類における嗅覚機能障害と認知症の関係を明らかにすることができると期待される」と、研究グループは述べている。
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