高齢者の再断裂リスク、術前に介入可能な要因はあるか
群馬大学は9月5日、これまで蓄積されたカルテデータを活用し、高齢者に多い肩腱板断裂の手術後の成績に、術前の栄養状態が関与していることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科整形外科学の設楽仁准教授、筑田博隆教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Bone & Joint Surgery」に掲載されている。
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肩腱板断裂は高齢者に多く見られる疾患である。60歳代の25%、70歳代の45%、80歳代の50%に肩腱板断裂が見られる。一度断裂した腱板は時間の経過とともに断裂が広がり、自然に治ることが期待できないため、症状や活動レベルに応じて手術が検討される。一方、手術を行っても高齢になるほど治癒が難しいという課題があった。
肩腱板断裂手術は、切れた腱を修復する手術であり、関節鏡と呼ばれる小さなカメラを使って体への負担を少なくして行う。手術の目的は、肩の機能回復と痛みの軽減で、手術では、糸が付いたネジを上腕骨に挿入し、断裂した腱に糸を通して元の位置に戻し、ネジで固定を行う。従来の研究では、術後の再断裂リスク要因として、手術前の断裂サイズの大きさや筋肉の状態の悪化が指摘されていたが、これらは術前に改善することが難しいものだった。
研究グループは今回、術前に改善可能な栄養状態に注目し、高齢者における肩腱板断裂手術後の再断裂リスクと術前の栄養状態との関連を調査した。
GNRIが109以上と比較して、103未満の患者は再断裂リスクが5.6倍高い
65歳以上の肩腱板断裂患者を対象に、肩腱板断裂手術後の再断裂率と術前の栄養状態との関連を調査した。143人を対象に、栄養リスク指数(GNRI)を用いて術前の栄養状態を評価した結果、GNRIが109以上(栄養状態が非常に良好)と比較して、103未満(栄養状態が低い)の患者では、再断裂のリスクが5.6倍高くなることが判明した。
一般的な外科手術ではGNRI98以上が正常とされているが、肩腱板断裂手術後の治癒には、より良好な栄養状態(GNRI103以上)が必要である可能性を示唆している。この結果は、術前の栄養管理が再断裂予防の新たなターゲットとなる可能性を示している。
今後、大規模な前向き研究での検証を
今回の研究で示された「術前の栄養状態が肩腱板断裂手術後の再断裂リスクに影響を与える」という発見を基に、さらなる研究が必要だ。まず、大規模な前向き研究を通じて、異なる年齢層や他の栄養評価指標を用いてこの関連性を詳しく検証することが求められる。また、実際に術前の栄養状態を改善することで、再断裂リスクをどの程度減らせるのかを明らかにするための臨床試験も重要だ。「栄養補助食品や食事指導が手術の成功率にどのように影響するのかを検討することが考えられる。最終的には、これらの知見を基に、術前栄養管理を標準的な治療の一環として取り入れることで、高齢者の肩腱板断裂手術後の予後を大きく改善し、患者の生活の質向上につなげることが期待される」と、研究グループは述べている。
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