慢性低Na血症の治療時に発生するODS、ミクログリアとの直接的な関連は未解明
藤田医科大学は9月4日、長期間の低ナトリウム濃度での培養がミクログリアへ与える影響や、慢性低ナトリウム(Na)血症モデルマウスでのミクログリアの変化について解析を行ったと発表した。この研究は、同大内分泌・代謝・糖尿病内科学の椙村益久教授、藤沢治樹講師、鈴木敦詞教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Free Radical Biology and Medicine」に掲載されている。
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低Na血症は電解質異常症の中で最も頻度が高く、日常診療でもよく遭遇する疾患である。急性の低Na血症は重篤な神経障害を来すことが知られていたが、慢性の低Na血症はこれまで、ほとんど無症状と考えられていた。しかし、最近では、慢性の低Na血症患者においても注意障害やバランス障害により転倒が増加し骨折のリスクが増加すること、記憶障害や抑うつ症状の発症率が増加することが報告されており、慢性低Na血症の病態の解明や治療の重要性は増しつつある。
その慢性低Na血症の治療時に、血清Na濃度が急速に上昇すると浸透圧性脱髄症候群(ODS)と呼ばれる意識障害、四肢麻痺、呼吸障害などの一部は不可逆的な症状を呈し、しばしば致死的になる重篤な神経の脱髄疾患を生じることが知られている。これまでに、研究グループは、動物モデルを用いて、ODSの病態において脳内の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化することを明らかにしてきた。しかしながら、ODSで認められるミクログリアの活性化が急激な血清Na濃度上昇の直接的な影響によるのか、組織障害などによる二次的なものであるかはわかっていない。さらに、慢性低Na血症のミクログリアへの直接的な影響も明らかになっていない。
細胞株・モデルマウス用い、慢性低Na濃度のミクログリアへの影響を確認
慢性の低Na濃度のミクログリアへの直接的な影響を調べるために、ミクログリア細胞株BV-2と6-3細胞の培養液のNa濃度を一週間程度かけて徐々に低下させた。また、Na濃度の急激な上昇の影響を調べるために、Na濃度を徐々に低下させたのち、Na濃度を正常まで急激に上昇させ、6時間培養した。これらの状態において、各種遺伝子発現量や一酸化窒素(NO)の産生量を測定した。
また、生体での慢性低Na血症のミクログリアへの影響を調べるために、慢性低Na血症モデルマウスを作製し、その脳からMagnetic cell sorting(MACS)によりミクログリアを単離し、遺伝子発現解析を行った。
低Na濃度ミクログリア細胞株、浸透圧応答遺伝子のNFAT5発現低下によりNO産生低下
培養液中のNa濃度を徐々に低下させた低Na濃度群では、コントロール群と比べて、ミクログリア細胞株からのNOの産生量およびNOを合成するNos2 mRNA発現量が有意に低下した。また、浸透圧応答遺伝子であるNFAT5の発現量がコントロール群と比べて有意に低下し、NFAT5の核内に存在する割合も低下していた。低Na濃度群で、NFAT5を過剰に発現させると、NO産生量が増加し、低Na濃度によるNO産生の低下は、NFAT5を介していることがわかった。
Na濃度の急速補正、ミクログリアのNO産生量を直接増加
また、低Na濃度からNa濃度を急激に上昇させた場合、培養ミクログリア細胞株のNO産生量とNos2 mRNA発現量は有意に増加した。このことから、ODSの病態において、低Na血症の急速補正は、部分的に直接、ミクログリアのNO産生量を増加させると考えられる。
低Na血症マウスのミクログリアでもNos2とNfat5発現量低下を確認
さらに、14日間、低Na血症にしたマウスの大脳皮質から単離したミクログリアは、コントロール群のマウスから単離したミクログリアと比べて、Nos2およびNfat5 mRNA発現量が有意に低下しており、生体でも慢性の低Na血症がミクログリアの機能に影響していることが示唆された。
ミクログリア機能を標的とした治療法開発につながることを期待
今回の研究の結果は、低Na血症によるミクログリアの機能の変化が中枢神経系に悪影響を及ぼす可能性を示唆している。また、ODSの病態において、血清Na濃度の急激な上昇が、ミクログリアの活性化に部分的に直接影響していることが示唆された。「今後、慢性低Na血症による中枢神経機能障害およびODSについて、さらなる機序解明が進むとともに、ミクログリアの機能を標的とした新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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