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急性大動脈解離後の緊急透析リスクは男性の方が女性より高い-東京医歯大

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2024年08月26日 AM09:30

急性大動脈解離のいくつかの臨床的特徴に性差、高頻度で合併する急性腎障害にも差はあるか

東京医科歯科大学は8月20日、急性大動脈解離発症後の緊急透析リスクに顕著な性差が存在することがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の萬代新太郎テニュアトラック准教授、中野雄太非常勤講師、内田信一教授、同大大学院医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

人間の腎臓は、老廃物の排泄(血液のクレンジング)にとどまらず、体内の電解質・ミネラルの調整、血圧の調整、赤血球をつくるホルモンの産生や、骨の強化など、生命と健康を維持するためにさまざまな役割を担っている。こうした腎臓の機能は残念ながら多くの場合、老化や生活習慣、薬、また、今回の研究にも関わる血流不全などさまざまな原因で、不可逆的に衰える。内服や点滴では体の恒常性と生命を維持できない水準に至ると、透析という治療が必要になる。

急性大動脈解離は突然発症し、現代の集学的な救急医療においてもなお死亡率が高い、重大な心血管病の一つである。急性大動脈解離のいくつかの臨床的特徴に、性別による差異があることが知られていた。例えば、男性の罹患率が高い一方で、女性はより高齢で発症し、発症時の症状が非典型的であり男性に比べて予後が不良になる可能性が指摘されていた。

急性大動脈解離の重大かつ頻度の高い合併症として急性腎障害があり、特に透析を必要とするような重度の腎障害は、生命予後を悪化させうる強いリスク因子と報告されている。しかし、急性大動脈解離後の急性腎障害の発症リスクにおける性差についてはこれまでほとんど検討されたことがなかった。そこで研究グループは、全国規模のリアルワールドデータを解析し、急性大動脈解離による入院後の緊急透析リスク、その性差を明らかにすることを目的に調査を行った。

入院後30日以内の緊急透析リスク、A/B型解離いずれも女性<男性

DPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて、性別が急性大動脈解離後の透析リスクに与える影響を全国規模で調査した。2010~2020年までに、スタンフォード分類A型またはB型の急性大動脈解離で緊急入院した成人7万9,998例(A型解離3万4,714例、B型解離4万5,284例)を解析対象とした。

入院後30日以内の緊急透析リスクについて、院内死亡を競合リスクとして考慮した「競合リスク解析」を行った。年齢中央値は、A型解離では女性74歳、男性62歳、B型解離では女性76歳、男性70歳と過去の報告同様に女性で高齢発症の傾向があった。競合リスクを考慮した緊急透析の累積発生率は、A型解離では女性7.4%(95%信頼区間(CI):7.0–7.8)に対して男性13.8%(95%CI:13.3–14.3)、B型解離では女性1.1%(95%CI:1.0–1.3)に対して男性2.8%(95%CI:2.7–3.0)と、いずれの場合も女性で少なく、Gray検定を行うといずれのタイプの大動脈解離においても、女性で緊急透析率が少ないことが確認された(P値0.001未満)。

段階的に調整因子を加えた解析モデルでも、女性は低リスク

次に、Fine-Grayモデルを用いた多変量解析によって、段階的に調整因子を加えていく5つの解析モデルを構築し、緊急透析の比例サブハザード比(SHR)を算出した。モデル1は性別のみ、モデル2はモデル1および、年齢、body mass index、併存症(心血管病、糖尿病、慢性肺疾患)、施設規模、入院年とした。モデル3は、モデル2および、入院時の意識状態、救急搬送の有無。モデル4は、モデル3および、集中治療室への入室の有無、人工心肺使用の有無。モデル5はモデル4および、主な治療法(開胸手術、ハイブリッド手術、血管内治療、内科的治療)、のように各々共変量で調整した。

男性に対する女性のSHRは、A型解離ではモデル1[SHR:0.52(95%CI:0.48–0.55)]、モデル2[SHR:0.58(95%CI:0.54–0.63)]、モデル3[SHR:0.58(95%CI:0.54–0.62)]、モデル4[SHR:0.58(95%CI:0.54–0.62)、モデル5[SHR:0.58(95%CI:0.54–0.62)]だった。B型解離ではモデル1[SHR:0.40(95%CI:0.34–0.47)]、モデル2[SHR:0.47(95%CI:0.40–0.56)]、モデル3[SHR:0.47(95%CI:0.40–0.56)]、モデル4[SHR:0.48(95%CI:0.40–0.57)]、モデル5[SHR:0.49(95%CI:0.41–0.58)]だった。一貫して女性の緊急透析リスクが低いことが確認された。

男性では一層、腎臓の負担を考慮した検査法を選択するなどの戦略が必要な可能性

これまで、急性大動脈解離後の緊急透析リスクにおける性別による違いはわかっていなかったが、今回初めて、A型解離、B型解離いずれにおいても女性では男性に比べて緊急透析のリスクが低いことが判明した。大血管の障害と腎障害の臓器連関に性差があることがわかり、急性大動脈解離という緊急疾患において男性では一層、腎臓の負担を考慮した検査法を選択するなど、性別を考慮した診療戦略の重要性を示す成果が得られた。

基礎医学研究では、虚血性腎障害のモデルマウスでは女性という因子が腎臓に保護的な役割を果たし、男性という因子が腎障害の増悪因子となることは以前から報告されていた。急性大動脈解離後の腎障害の原因の多くは循環不全や灌流障害による虚血性腎障害であることが推定される。

「リアルワールドデータから導出された今回の研究結果は、基礎研究知見とリンクしたベッドサイドの知見を得たものと考えられる。今後、さらなる性別と急性腎障害の関連の生物学的なメカニズムの解明によって新たな治療法や予防法につながる可能性を示した。一方、研究は観察研究であり、データベースには救急搬送に要した時間や、発症時の症状、入院時や外来時の検査データが解析に含まれていないため、因果関係を追求することが難しいという制約がある。また、性別の違いがどのように腎障害を軽減するのかという生物学的な因果関係の証明とメカニズムの解明のためには、さらなる研究が必要だ」と、研究グループは述べている。

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