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脂質異常症を改善し、副作用軽減が期待される新規治療薬候補を開発-名大

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2024年08月19日 AM09:10

スタチンやエゼチミブ、すべての患者に有効な治療ではない

名古屋大学は8月7日、脂質異常症を改善する新規甲状腺ホルモン(TH)の誘導体ZTA-261を新たに開発し、マウスへのZTA-261の投与により肝臓および血中の脂質が低下したことを確認したと発表した。この研究は、同大トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の南保正和特任准教授、佐藤綾人特任准教授、キャサリンクラッデン教授、吉村崇教授、大学院生命農学研究科の大川妙子准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

現在、世界人口の約10%が肥満または過体重に分類されている。これらは脂質代謝異常と密接な関連があり、公衆衛生上の重大な課題となっている。肥満の治療薬として、肝臓でのコレステロールの生合成を抑制するスタチンや小腸からのコレステロールの吸収を抑制するエゼチミブなどが知られているものの、すべての患者に対して有効な治療法ではない。そこで最近注目されているのが、THの性質を利用した治療法である。

THは代謝を活性化するホルモンであり、その受容体にはαおよびβの2種類(THRαおよびTHRβ)が存在する。THはTHRβを介して脂質代謝を促進するが、過剰量のTHはTHRαを介して心臓、骨、筋肉に悪影響を及ぼすことが知られている。したがって、THRβに選択的に結合する化合物が開発できれば、脂質異常症に対する新たな治療薬となることが期待される。

開発したTH誘導体ZTA-261、高選択的にTHRβと結合

研究グループは、THに類似した構造を持つ新規化合物(TH誘導体)としてZTA-261の開発に成功した。ZTA-261のTH受容体への結合を調査したところ、THRβへの結合のしやすさを示す親和性はTHRαへの親和性の約100倍であることが明らかとなった。代表的なTH誘導体であるGC-1の親和性の差が約20倍程度であったことからも、ZTA-261がTHRβに高選択的に結合する化合物であるといえる。

マウス投与で血中・肝臓の脂質減、副作用は既存化合物と比べ大幅軽減

次に、高脂肪食を与え肥満を誘導したマウスにZTA-261を投与したところ、血中および肝臓の脂質を減少させること、特に中性脂質(トリグリセリド)を減少する効果が極めて高いことが明らかとなった。

さらに、化合物の毒性を評価するため、血中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)量を測定したところ、ZTA-261を投与したマウスと生理食塩水を投与したマウスとで、ALT量の有意な差は認められなかった。また、THにより心拍数の異常な亢進が起きると心臓に負担がかかることで心肥大が起きるが、T3を投与したマウスでは生理食塩水を投与したマウスと比較して心重量が有意に増加したのに対し、ZTA-261を投与したマウスでは増加は認めなかった。

過剰量のT3は、THRαを介して骨に作用し、骨量を低下させることが知られている。研究においても、T3の投与によって大腿骨の海綿骨部分の骨体積率(BV/TV)や、骨梁数(Tb.N)が低下し、骨梁間隙(Tb.Sp)が増加することが明らかになった。一方、ZTA-261はGC-1よりもさらに骨に対する副作用が小さく、ZTA-261を投与したマウスと生理食塩水を投与したマウスの間でこれらの値に有意な差は見られなかった。

今回開発されたZTA-261は、THRβに対して高い選択性を持つため、THRαによって引き起こされる心肥大や骨量低下といった副作用が大幅に軽減されたと考えられる。「この化合物は、、非アルコール性脂肪肝炎、心血管疾患などのさまざまな疾患の要因となる脂質異常症の治療薬として臨床応用が期待される」と、研究グループは述べている。

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