既存の薬剤では腫瘍増大やACTHの産生抑制が不十分
京都大学は8月2日、化合物スクリーニングからクッシング病に対する新たな治療薬候補を発見したと発表した。この研究は、医学部附属病院の伯田琢郎医員、医学研究科の山内一郎助教、同・稲垣暢也教授(現 田附興風会理事長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Endocrinology」にオンライン掲載されている。
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下垂体腫瘍は脳腫瘍の中でも比較的頻度が高い疾患だ。その中で副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生する下垂体腫瘍があり、クッシング病の原因となる。クッシング病では腫瘍から産生されたACTHが副腎からステロイドホルモンを過剰に分泌させ、肥満、高血圧症、糖尿病などさまざまな合併症を引き起こす。クッシング病の治療は、原因である下垂体腫瘍に対する手術療法が基本だが、比較的よく再発する。また、手術ができないなど治療に難渋する場合には薬物療法が必要となるが、現在使用できる薬剤では腫瘍の増大やACTHの産生を十分に抑制できないことが多く、新たな治療薬が望まれている。
そこで研究グループは今回、クッシング病に対する新たな治療薬の開発を目指し、化合物スクリーニングを用いて探索を行った。
84種類の化合物を治療薬候補として同定、特に「チオストレプトン」に注目
化合物スクリーニングを実施するにあたり、抗原抗体反応を用いた従来のACTH測定系では作業工程が多く、高速かつ大量に評価することが困難だった。そこで、ACTHのセカンドメッセンジャーであるcAMPを蛍光バイオセンサにより評価する「ACTHレポーターアッセイ」を新たに開発。この測定系を用いることにより、10分間に約100検体のACTH濃度を評価することが可能となった。
同測定系を用いて、医学研究科ドラッグディスカバリーセンター支援のもと、2,480種類もの化合物に対してスクリーニングを行った。クッシング病のモデル細胞株であるAtT-20細胞が分泌するACTHが化合物の投与により変化するか、ACTHレポーターアッセイにより評価。再現実験を経て、84種類の化合物を治療薬候補として同定した。その中から「チオストレプトン」に注目し、さらに解析を進めた。チオストレプトンは抗菌薬として開発された一方、さまざまながんに対して効果を示すことが近年明らかにされていたが、下垂体腫瘍に関する報告はなかった。
チオストレプトンの抗腫瘍効果をクッシング病モデルで確認
チオストレプトンをAtT-20細胞へ投与したところ、分泌されるACTH量が低下しただけでなく、細胞の数や生存率も減少した。またAtT-20細胞を移植したマウスに対してもチオストレプトンを投与し、形成される腫瘍の縮小と、血液中のACTH、副腎皮質ステロイドの減少を確認した。最後に、チオストレプトン投与がもたらす遺伝子発現の変化を調べることにより、サイクリンを中心とした細胞周期に関連する遺伝子を変化させ、細胞周期の停止と細胞死を誘導することを明らかにした。
以上のようにして、これまでで最多の化合物を用いたクッシング病を標的とするスクリーニングを実施し、クッシング病の治療薬となり得る候補化合物を多数同定。さらに候補化合物の一つであるチオストレプトンが、クッシング病モデルにおいて細胞周期の制御を介した抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。
同定した新規治療薬候補を一般公開、チオストレプトン以外の候補化合物も検証中
チオストレプトンと同じ作用点において細胞周期を制御するサイクリン依存性キナーゼ阻害薬はクッシング病に対する臨床試験が海外で行われており、チオストレプトンも治療薬として有望と考えられる。
また、研究グループは多数の候補化合物を同定したが、さらなる治療薬の開発につながることを期待し、一覧として公開した。さらに同研究成果を足掛かりに、チオストレプトン以外の候補化合物についてもクッシング病に対する効果を検証中だ。
「今回開発したACTHの新規測定系については、より高精度・高効率とする改良を現在進めており、他のホルモンの測定への応用も検討している」と、研究グループは述べている。
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