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「おいしさの誘惑」を乗り越えるには前頭前野の活動が重要な可能性-群馬大ほか

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2024年08月06日 AM09:20

健康を重視する食品選択を行う際、ヒトの脳はどう機能しているか

群馬大学は7月30日、「おいしいけど健康によくない食べ物」に対して「健康にいいけどおいしくない食べ物」を選ぶとき、ヒトの前頭前野が活動し、その活動は長期的な利益を最大にする自制心の強いヒトほど大きくなることを発見したと発表した。この研究は、同大情報学部の竹鼻愛研究員(研究当時)と地村弘二教授、生理学研究所の定藤規弘教授(兼任)、株式会社アラヤの近添淳一チームリーダー、同志社大学大学院脳科学研究科の松井鉄平教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cerebral Cortex」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

食べ物を選ぶとき、おいしさや健康にいいかは重要だ。健康にいい食事をとることは、自身の健康につながる。しかし、誰もがそのことを知っているにもかかわらず、おいしさを優先して健康に悪い食事を衝動的に選んでしまうことがよくある。例えば、脂肪分や糖分、炭水化物が多く含まれた食べ物が健康にはあまりよくないとわかっていながらも、つい手を伸ばしてしまう経験は誰にでもある。つまり、健康的な食べ物を優先して選択していくことは簡単ではない。これは、おいしさより健康を重視して食べ物を選ぶためには、おいしさという目前の利益より、健康という長期的な利益を優先するための自制が必要だからである。健康を重視する食品選択を行う際に、ヒトの脳はどのように機能しているか、このときの脳活動は自制とどのように関わっているのかを、今回研究グループは調査した。

自制の強さ、金銭報酬の選択課題により測定

研究グループは、おいしさと健康を指標にした食べ物をヒト被験者が選択する状況における脳活動を計測した。まず、被験者は食べ物を、おいしさと健康的かどうかで評価し、「おいしいけど健康によくない食品」と「健康にいいけどおいしくない食品」に分類した。そして、脳活動の計測中に、画面に表示されたこれらの2種類の食品のうち、どちらか食べたい方を選択した。ここで、「おいしいけど健康によくない食品」ではなく、「健康にいいけどおいしくない食品」を選んだ場合、おいしさより健康を重視したことに相当する。

加えて、将来得られる金銭報酬を選択する課題により、自制の強さを測定した。この課題では、獲得までの時間と金額が異なる2つの報酬について、どちらか欲しい方を一つだけ選ぶ。例えば、「いますぐ5,000円をもらう」、または、「1年後に1万円をもらう」かのどちらかを選ぶ場合、「いますぐ5,000円をもらう」という選択は目前の利益を優先した結果であり、衝動的だ。一方で、「1年後に1万円をもらう」という選択は目前の利益よりも長期的な利益を優先しており、自制心が強いことを意味する。すなわち、獲得するまで待つ必要があるが、報酬の量が多いという選択をするヒトは、自制心が強いということになる。

「おいしさ<健康」重視の場合に前頭前野が活動、自制心が強いヒトほど活動が大きい

食べ物の選択における脳活動を調べたところ、「健康にいいけどおいしくない食品」を選んだとき、すなわち、おいしさより健康を重視する選択を行ったとき、前頭前野の大きな活動が観察された。さらに、金銭報酬における長期的な利益を優先する、つまり、自制心が強いヒトほど、これらの領域の脳活動が大きいということがわかった。一方、自制心の強さは認知機能と関係があるとこれまで考えられてきたが、認知機能は、食べ物の選択における健康の優先とは関係がないことが示唆された。

健康を優先するという長期的な利益に基づく選択はヒトに特徴的

「今回の研究結果は、ヒトがおいしさより健康を重視して食品を選ぶとき、長期的な利益を優先するという自制に関連した前頭前野の活動が重要な役割を果たしていることを示唆している。食べ物の選択は他の動物種にとっても大切な行動であるが、健康を優先するという長期的な利益に基づく選択をすることはヒトに特徴的であると考えられ、ヒトで最も発達している前頭前野が健康の優先に関与していることは興味深い。健康的な食生活の継続には、この前頭前野における自制の機構が重要ではないかと考えられる」と、研究グループは述べている。

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