犬は人間のストレスのにおいを感じ取り、行動を選ぶ
犬は人間がストレスを感じているのかリラックスしているのかを嗅ぎ分けることができ、また、そのような嗅覚情報は犬の感情や行動の選択にも影響することが、新たな研究で示唆された。英ブリストル大学獣医学部野生動物保護学分野のNicola Rooney氏らによるこの研究の詳細は、「Scientific Reports」に7月22日掲載された。Rooney氏は、「使役犬の訓練士はよく、自分のストレスがリードを介して犬に伝わると表現するが、われわれは、空気を介してストレスが犬に伝わる可能性のあることを示した」と述べている。
画像提供HealthDay
研究グループは、十分に評価されていないものの、人間の間ではにおいが感情的コミュニケーションの重要な一形態であることは以前より指摘されていると説明する。このことから研究グループは今回、人間よりもはるかに高性能の嗅覚を持つ犬は、人間の感情を嗅覚で感じ取り、それに応じた行動をとるのではないかと考え、18頭の犬を対象に実験を行った。
実験は、それぞれ7日程度の間隔を空けて実施する3つのセッションで構成されていた。最初のセッションでは、無臭サンプルを用いて、ある場所に置かれたボウルの中にはおやつが入っているが別の場所に置かれたボウルの中には何も入っていないことを犬に学ばせた。
続くセッション2と3では、ストレスのかかった状態とリラックス状態にある人から採取した息と汗のサンプル(それぞれ、「ストレスサンプル」「リラックスサンプル」とする)に犬を曝露させた上で、おやつ入りのボウルと空のボウルの間の曖昧な位置(おやつが入っているボウルに近い位置、おやつの入っているボウルと空のボウルの中間、空のボウルに近い位置)に置かれたボウルに対して犬がどのように行動するのかを観察した。セッション2では半数の犬にストレスサンプル、残りの半数にリラックスサンプルを用い、セッション3ではその逆とした。犬をサンプルに曝露させる前には必ずおやつ入りのボウルと空のボウルの位置を学ばせる訓練を行った。犬が曖昧な位置に置かれたボウルに素早く近付いた場合には、「ボウルの中に食べ物があるかもしれない」という「楽観的」な心境にあり、逆に、ゆっくり近付いた場合には、「多分、中におやつは入ってない」という「悲観的」な心境にあると見なした。
その結果、セッション3でストレスサンプルのにおいに曝露した犬は、無臭のサンプルに曝露した場合と比べて、曖昧な位置(空のボウルに近い場所)に置かれたボウルへ向かおうとする意欲が有意に低下することが明らかになった。このことは、犬は人間のストレスのにおいを嗅ぎ取ると、エネルギーを節約して失望を避けるというリスク回避行動を取る可能性があることを示唆している。このような「悲観的」な反応は、リラックスサンプルに曝露させた場合には見られなかった。また、おやつ入りのボウルと空のボウルの位置に関する犬の学習は訓練を重ねるごとに向上したが、セッション2と3の間では、セッション3でストレスサンプルに曝露した場合にのみ顕著な向上を見せた。この結果から、においが学習に影響を及ぼしていることがうかがわれた。
Rooney氏は、「犬の飼い主は、ペットがどれほど自分の感情に同調しているかを知っている。しかし今回の実験では、ストレスのかかった見知らぬ人のにおいでさえも、犬の感情状態、報酬の知覚、学習能力に影響を与えることが示された」と話す。
さらにRooney氏は、この知見は実社会への応用が可能だと話す。同氏は、「人間のストレスが犬のウェルビーイングにどのような影響を与えるのかを理解することは、犬舎で飼われている犬、コンパニオンドッグや補助犬などの使役犬として訓練されている犬にとって重要な検討事項だ」と述べている。
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写真:試験に参加した犬のフレディーとにおいサンプル
Photo Credit: University of Bristol