新生児の壊死性腸炎や胎便関連性腸閉塞の原因や病態は不明
東京大学医学部附属病院は7月17日、早産児を含めた新生児が排出する初回胎便に含まれるタンパク質組成を明らかにしたと発表した。この研究は、同病院 小児科の設楽佳彦助教、小児外科の渡辺栄一郎医師(群馬県立小児医療センター 一般外科部長)、かずさDNA研究所 応用プロテオミクスグループの川島祐介グループ長、紺野亮特任研究員、千葉大学国際高等研究基幹の吉原正仁准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
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超早産児や超低出生体重児などの未熟性が強い新生児は、壊死性腸炎や胎便関連性腸閉塞などの病気になりやすく、死亡率が高くなる。これまでさまざまな種類の検体を用いて研究が行われてきたが、これらの疾患の原因や病態の解明には至っておらず、侵襲を伴う検体採取も課題となっていた。
そこで研究グループは今回、新生児の負担なく採取できる胎便に着目し、胎便タンパク質の解析に成功した。
胎便中に含まれるタンパク質が、生物学的機能を持ったタンパク質の集合体と判明
まず、プロテオーム解析から、出生後に初めて排泄された胎便中には5,370種類のヒト由来となるタンパク質が含まれていることが判明した。
これらを詳細に分析したところ、胎便中に含まれるタンパク質は、食道、胃、肝臓、膵臓、そして小腸や大腸などの消化管だけではなく、脳、心臓、肺などの全身のあらゆる臓器や組織を由来とする、多数の生物学的機能を持ったタンパク質の集合体であることがわかった。
早産児は胎便タンパク質に「細胞外マトリックス」成分が多く含まれることなどを発見
次に、早産児では女児がより疾患に対する耐性を示すことから、胎便タンパク質の男女差を確認したところ、両者には明らかな差が認められた。女児では体液性免疫に関連するタンパク質が多く、性別が生後早期の発達における消化管のストレス耐性に影響を与える可能性が考えられた。
また、在胎週数と胎便タンパク質の関連を調べたところ、在胎週数で変動するタンパク質のパターンの存在が確認できた。特に早産児では、ラミニン、インテグリン、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの成分が多いことがわかった。粘液成分として知られているムチンに着目すると、早産児には特有のムチン組成があることもわかった。
これらの胎便の特徴は、新生児が成熟度の影響を受け、出生後早期の早産児によくみられる消化管疾患と関与しているものと考えられる。さらに、4つの疾患群(消化管疾患、先天性心疾患、染色体異常、先天感染)と母体の状態(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群)と胎便タンパク質組成の関係性を調べたところ、各疾患群や母体の状態で、胎便タンパク質が異なることが確認できた。
新生児の負担なく消化管の状態を評価するための新規手法となることに期待
最後に、胎便タンパク質組成の違いに着目して、在胎週数予測が可能か否かを検討した。機械学習手法の一つであるラッソ(Lasso)回帰を用いることで、57種類のタンパク質を使用した在胎週数予測モデルの構築に成功した。同モデルから、先天性の消化管疾患や心疾患では、予測週数が実際の週数より低いことが判明。これは、消化管の未熟性や心機能低下による血流分布異常が一因となっているものと考えられる。
今回の研究では、新生児に負担をかけず採取可能な胎便に多数のタンパク質が含まれること、それらの組成が在胎週数などさまざまな要因で異なることを明らかにした。「本研究成果は、新生児の消化管生理学の解明だけでなく、先天性の消化管疾患や心疾患、染色体異常、先天感染などの全身性疾患の病態生理学の解明にも大いに役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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