フィリピンではコロナの影響で動物への狂犬病ワクチン接種率低下
大分大学は7月12日、フィリピンでの3年間の前向き患者登録研究から、これまで不明であったヒトへの狂犬病感染の原因動物が、成犬ではなく子犬であることが示され、全世界での子犬へのワクチン接種レジメの見直しを強く提唱したと発表した。この研究は、同大医学部医学科微生物学講座・グローカル感染症研究センターの西園晃教授と、同センター客員教授であり長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点の齊藤信夫准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Frontiers in Microbiology」に掲載されている。
フィリピンは年間200人から300人が狂犬病で亡くなる狂犬病高蔓延国である。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、動物の狂犬病ワクチン接種率が低下し、狂犬病の発生がさらに増加している。その結果、現在フィリピンでは、年間100万人以上の人々が動物咬傷後の狂犬病発症予防のためにワクチンを接種しており、非常に大きな経済的負担となっている。これまで狂犬病患者に関する詳細な検討は行われておらず、原因動物の年齢など詳細はわかっていなかった。
151例を調査、子犬が狂犬病の最も主要な原因動物と確認
研究グループは、狂犬病患者に関し、感染原因を詳細に検討する研究をフィリピンで実施した。3年間で151例の狂犬病患者を登録。この研究は世界でも最も大規模な前向き研究となった。その結果、子犬が狂犬病の最も主要な原因動物であることが確認され、これは以前に同グループがフィリピンで行った動物狂犬病の大規模研究で得られた結果とも一致したものだった。この事実は、子犬への狂犬病ワクチン接種方法に問題があることを示唆するもので、研究グループはワクチン接種方法の早急な見直しが必要であることを提唱した。
咬傷後、自己判断で治療の必要がないと考えるケースが多いことも判明
さらに、動物咬傷後に発症予防法を受けない最も一般的な理由として、軽度の咬傷であるために自己判断で治療の必要がないと考えるケースが多く、それが狂犬病による死亡につながることが多いことが明らかになった。
狂犬病は世界中で蔓延している恐ろしい感染症である。特に、蔓延国への渡航の際はリスクを認識し、動物とのむやみな接触を避けるよう注意が必要だ。2019年には、フィリピンを訪れたノルウェーの女性が、助けた子犬にかまれた後、狂犬病で亡くなるという悲しい事例が発生している。
動物に咬まれた場合、たとえ軽症であってもすぐに咬傷部位を15分以上洗浄し、現地の動物咬傷外来を受診することが重要だ。狂犬病ワクチンや狂犬病グロブリンの接種は、発症をほぼ100%防ぐことが可能だ。これらの対策をとることで、狂犬病のリスクを大幅に減少させることができる。「この成果は、狂犬病予防の方針や、動物咬傷への意識を大きく変えることに役立つものであり、今後の狂犬病予防に大きなインパクトを与える可能性がある」と、研究グループは述べている。
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