一般の5G回線で混雑環境下では手術映像の乱れなどの課題
神戸大学は6月24日、無線の混雑環境下でも安定した通信を提供する回線「5Gワイド」を用い、若手医師のロボット手術を熟練医師が遠隔で支援する実証実験に成功したと発表した。この実験は、同大および株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)、株式会社メディカロイド(以下、メディカロイド)、神戸市が協働で実施したものだ。
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手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)(TM)サージカルロボットシステム」(以下、hinotori)は、メディカロイド製の手術支援ロボットで、2020年8月に内視鏡手術を支援するロボットとして泌尿器科領域で製造販売承認を取得。同年12月に1例目の手術を実施している。2022年10月には消化器外科・婦人科、2024年4月には呼吸器外科においても適応について承認を取得し、現在、使用症例を増やしている。
遠隔ロボット手術支援は、一般の5G回線での混雑環境下において医師がスムーズにロボットを制御できなかったり、手術映像が乱れたりするなど、手術支援を円滑に進めることができないケースがあった。そこで今回、遠隔ロボット手術支援ソリューションの早期社会実装に向けて、災害時などネットワーク混雑が想定される場面での利用を見据え、ネットワークの混雑度を模擬した環境下においても、5Gワイドを用いることで、遠隔ロボット手術支援が安定して実施できるか評価する実証実験を行った。5Gワイドは、NTT Comの5G総合コンサルティングサービスdocomo business プライベート5Gのメニュー。スライシングにも活用可能な無線ネットワークのパケット優先制御機能により、混雑エリアや時間帯においても通信の安定化・速度向上に貢献することが期待される。
混雑環境下でも5Gワイド回線利用時はロボット制御や映像伝送に影響なく手術実施可能
具体的には、兵庫県神戸市の統合型医療機器研究開発・創出拠点(MeDIP)に、手術支援ロボット「hinotori」のオペレーションユニットと遠隔操作用のサージョンコックピットを設置した。5G SA方式を利用し、クラウド基盤(docomo MEC〔川崎拠点〕、MECダイレクト)を介して大容量・低遅延・セキュアなネットワークで両装置を接続した。また、混雑環境を模擬するために、5G端末を複数台用意して、各端末から大容量データ伝送を行い、上りの通信に対して外部トラフィックを加えた。混雑環境下で、5Gワイドを用いる場合と用いない場合での医師による遠隔ロボット手術支援の主観評価および無線などのログデータを取得して客観評価を行った。
その結果、5Gワイドを用いる場合は、混雑環境下においてもロボット制御や映像伝送に影響が出ることなく、安定して遠隔ロボット手術支援を行えることが確認された。一方で、5Gワイドを用いない場合は、5G端末を増やすと手術映像が乱れるなど、遠隔ロボット手術支援に影響が発生した。これらの結果から、実運用時に想定される、ネットワーク混雑環境下においても、5Gワイドを用いることで、安定した遠隔ロボット手術支援が可能で、早期社会実装に向けて一歩前進したと考えられた。
臨床利用を想定した技術・機能の開発や、ロボット手術トレーニングなどの検証を予定
実証実験に参加した5者は今後、5Gを活用した遠隔ロボット手術支援ソリューションの実用化を目指し、臨床利用を想定した技術・機能の開発や、ロボット手術トレーニングなどの検証を進めていくとしている。また、「早期社会実装に向けて行政や学会に制度設計の準備などの働きかけを行うなど引き続き連携して取り組むとともに、次世代ネットワーク5G Evolution & 6Gを導入し、より低遅延・高信頼な遠隔医療を実現することで、医療業界のさらなる発展に貢献したい」としている。
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