骨端の硝子軟骨に血管が侵入して骨へ置換されるプロセスの詳細は不明だった
広島大学は6月20日、腱と骨をしなやかにつなぐ線維軟骨の硬さを制御する仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科・生体分子機能学の山家新勢大学院生、吉本由紀特任助教/日本学術振興会特別研究員(当時、現東京医科歯科大学講師)、池田和隆(歯科診療医)、宿南知佐教授の研究グループと、歯科矯正学の谷本幸太郎教授、同大学院統合生命科学研究科の山本卓教授、京都大学医生物学研究所の安達泰治教授、牧功一郎助教、近藤玄教授、東京歯科大学の溝口利英教授らの研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」オンライン版に掲載されている。
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筋肉の収縮力は腱を介して骨に伝達され、姿勢の維持、呼吸、複雑な身体運動が実現される。腱の骨への付着部である線維軟骨性エンテーシスは、胎生期・出生時は硝子軟骨と腱の2層構造をとっているが、骨端の硝子軟骨に血管が侵入して骨へ置換されるにつれ、骨・石灰化線維軟骨・非石灰化線維軟骨・腱の4層構造をとるようになる。このプロセスは、シグナル分子と力学因子により巧妙に制御されているが、その実体については、これまでほとんど明らかにされていなかった。
Sost欠失マウスが、硬結性骨化症の疾患モデルマウスとして有用と判明
今回、研究グループは、骨と腱をつないでいる線維軟骨細胞の成熟に伴ってスクレロスチンが発現することを見出し、その機能を解析するために、ゲノム編集技術を用いてスクレロスチンが発現しないSost欠失マウスの系統を確立した。ヒトでは、遺伝子変異によるSostの発現低下は硬結性骨化症の原因となることが知られている。Sost欠失マウスにおいても全身の骨で骨化が亢進しており、硬結性骨化症の疾患モデルマウスとしても有用であると考えられた。
また、腱形成不全モデルであるScx欠失マウスにおいては、筋の収縮力が腱を介して十分に伝達されないために、線維軟骨の著しい形成不全が観察され、未成熟な線維軟骨ではスクレロスチンの発現がほぼ消失することがわかった。
スクレロスチンがなくなると線維軟骨が硬くなり、しなやかさを失うと判明
腱付着部の非固定・非脱灰凍結切片を原子間力顕微鏡で解析したところ、Sost欠失マウスの線維軟骨が硬くなっており、マイクロCTを用いた解析では、腱が付着する踵骨の骨量や骨密度の上昇が観察された。
スクレロスチンは、Wntシグナルのアンタゴニストで骨形成に抑制的に作用するが、その働きを阻害する抗スクレロスチン抗体が新しい骨粗しょう症薬として注目されている。線維軟骨においてもWntシグナルの活性化が検出され、スクレロスチンがWntのアンタゴニストとして作用している可能性が示唆された。
今回の研究では、線維軟骨細胞で作られるスクレロスチンは、直下にある骨に対して骨形成を抑制し、線維軟骨では硬さを制御することによって軟組織である腱と硬組織である骨をしなやかにつないでいることが明らかになった。
線維軟骨細胞の成熟を制御するメカニズム解明につながる可能性
腱と骨の連結部に牽引力や衝撃が加わり損傷すると、エンテソパチーと呼ばれる腱付着部障害により痛みや運動障害が引き起こされるが、既存の治療では線維軟骨を機能的に修復することはとても難しいことが知られている。スクレロスチンが発現するような線維軟骨の再生を目指すことによって、新しい治療法の確立を目指すことが出来ると期待される。
「今後、線維軟骨においてWntシグナルとスクレロスチンがどのように拮抗しているかを解析することにより、秩序だった線維軟骨細胞の成熟を制御するメカニズムを明らかにすることができると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果