関節リウマチ治療、感染症にかかりやすくなる副作用が問題となっている
北海道大学は6月12日、細胞内代謝産物であるイタコン酸が、関節リウマチの病態形成に重要な滑膜線維芽細胞を抑制し、関節炎動物モデルの疾患活動性を低下させることを発見したと発表した。この研究は、同大学病院の河野通仁講師、大学院医学研究院の渥美達也教授、医学院博士課程の多田麻里亜氏、工藤友喜氏、医学研究院の岩崎倫政教授、遠藤努助教、清水智弘講師、札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学の神田真聡講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Immunology」に掲載されている。
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関節リウマチは、免疫システムの異常により自分の関節組織を攻撃してしまい、関節を覆う滑膜に炎症が起こり、関節に慢性的な腫れや痛みを生じる病気である。進行すると軟骨や骨が破壊され、関節の変形や機能障害を起こす。滑膜の主な構成要素である滑膜線維芽細胞は、免疫細胞から産生されたTNF-αなどの炎症性サイトカインにより活性化、過剰に増殖し、パンヌスと呼ばれる肉芽組織を形成し、軟骨や骨に浸潤し、これを破壊する。
現在、関節リウマチに対しては免疫細胞を広く抑制、またはサイトカインをブロックする治療が主体であるが、副作用として感染症にかかりやすくなることが問題となっており、滑膜線維芽細胞をターゲットとする治療の開発が望まれている。
滑膜線維芽細胞を標的とした治療、過剰な炎症反応を抑制するイタコン酸に着目
従来の研究では、滑膜線維芽細胞の活性化には細胞内代謝が関わっており、解糖系などの主要な代謝経路の阻害により、増殖や遊走を抑制できることが明らかになっている。また、細胞内代謝産物であるイタコン酸はマクロファージが活性化したときに産生され、過剰な炎症反応を抑制する。イタコン酸は細菌やウイルスの増殖を抑える作用も報告されている。
研究グループは2023年、イタコン酸がT細胞の細胞内代謝を調整することにより、炎症を起こすT細胞への分化を抑制、炎症を抑えるT細胞への分化を促進し、さらにイタコン酸は多発性硬化症のマウスモデルに効果的であることを報告した。しかし、関節リウマチにおける滑膜線維芽細胞へのイタコン酸の効果は不明だった。
患者の滑膜から滑膜線維芽細胞を培養、イタコン酸の効果を評価
今回の研究では、同大学病院整形外科において人工膝関節または股関節置換術を行った関節リウマチ患者から採取した滑膜から滑膜線維芽細胞を分離・培養し、使用した。
まず、滑膜線維芽細胞にイタコン酸を添加し、増殖・遊走への影響を調べた。続いて、イタコン酸による滑膜線維芽細胞制御のメカニズムを解明するために、細胞内代謝の評価、網羅的な代謝産物解析を行った。さらに、細胞内でイタコン酸を産生するAcod1という酵素をノックアウトしたマウスに抗コラーゲン抗体誘発関節炎を引き起こし、関節炎および関節破壊の程度を評価した。最後に関節リウマチの動物モデルであるコラーゲン誘発関節炎をラットに引き起こし、イタコン酸を足関節内に注射し、関節炎に対する効果を評価した。
イタコン酸添加により滑膜線維芽細胞の増殖抑制、動物実験でも効果を確認
滑膜線維芽細胞はTNF-αで刺激すると、増殖能と遊走能の亢進が見られた。TNF-αで活性化状態にした滑膜線維芽細胞の培養液にイタコン酸を添加したところ、滑膜線維芽細胞の増殖および遊走が抑制された。また、イタコン酸は活性化した滑膜線維芽細胞の解糖系および酸化的リン酸化を抑制した。網羅的な代謝産物解析では、イタコン酸はTCA回路の中のコハク酸およびクエン酸の蓄積を引き起こした。
イタコン酸を作れないAcod1ノックアウトマウスは、野生型マウスと比較し、関節の腫れ、赤みが増し、CT画像と顕微鏡での評価で関節破壊の程度が強くなった。さらに、コラーゲン誘導関節炎を生じたラットに対してイタコン酸を関節内注射すると、関節炎を改善させ、CT画像と顕微鏡での評価で関節破壊の程度が減弱した。
「イタコン酸は抗菌、抗ウイルス作用を持つことから、本研究の成果によりイタコン酸を用いた滑膜線維芽細胞の抑制が、感染症のリスクが少ない、関節リウマチの新たな治療法の確立に役立つことが期待できる」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース