臓器障害前の治療開始が効果的だが、at risk者への遺伝医療調査はほとんどなかった
信州大学は6月10日、トランスサイレチン型遺伝性アミロイドーシス(ATTRvアミロイドーシス、旧病名:家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP))に対する遺伝医療の現状に関する調査報告を発表した。この研究は、同大医学部内科学第三教室の関島良樹教授、中村勝哉講師、吉長恒明助教、同附属病院遺伝子医療研究センターの古庄知己教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Amyloid」オンライン版に掲載されている。
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指定難病のひとつであるATTRvアミロイドーシスは、体内の臓器や組織に異常凝集したタンパク質「アミロイド」が沈着することで末梢神経、心臓、腎臓など全身の臓器障害に至る遺伝性疾患。原因遺伝子としてTTR遺伝子が特定されている。かつては、発症から10~15年で命を落とすとされていた。近年、疾患の進行を抑制する新規医薬品(トランスサイレチン4量体構造安定化薬、核酸医薬品など)が次々に登場し、日本においても本症の治療薬として保険適用されている。
ATTRvアミロイドーシスは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患であるため、患者の血縁者には、将来、一定の遺伝的リスクがある者(以下、at risk者)が存在する例が多い。同症の神経・心臓・腎臓などの臓器障害は不可逆的であるため、上述した新規治療薬は臓器障害に至る前に投与を開始することで、その効果が得られやすいことがわかっている。こうした観点から、同症のat risk者は治療薬の恩恵を受けやすいと考えられる。自身の遺伝情報を知り、健康管理にどのように役立てるか、そのプロセスを支援するための医療行為を遺伝医療と呼ぶが、同症のat risk者に対する遺伝医療について調査した研究はほとんどなかった。
ATTRvアミロイドーシス関連の遺伝カウンセリング受診者対象に調査、31人を継続モニタリング
今回の研究では、同大病院をATTRvアミロイドーシスに関連した遺伝カウンセリングを目的に受診した202人を対象に調査した。発症前遺伝子診断を実際に行ったのは83人であり、33人で発症に関連する遺伝子の変化を認めた。33人中31人が引き続き同大病院にて健康管理のためのモニタリングを行った
臓器障害症状なし・軽微段階で、治療を導入
31人中11人でアミロイド沈着が確認され、臓器障害の症状がない、または軽微な段階で、進行を抑制する治療法が導入されていた。日本に最も多い遺伝子の変化V30M(p.V50M)を保有していた人の場合、アミロイド沈着が最初に確認された年齢は32.0±2.4歳(中央値±標準誤差)と推計された。また、血清中のトランスサイレチン(TTR)項目を測定すると、発症を確認する以前から連続的に減少していることが新たに示された。
治療早期開始のために、at risk者が自身の遺伝リスクを知ることが重要
同研究結果は、遺伝カウンセリングと発症前遺伝子診断、モニタリング法を組み合わせた臨床遺伝学的アプローチが有用であることを示唆している。自身が遺伝性疾患に罹患していることを家族に説明することに心理的な障壁を感じている患者は多いが、有効な疾患修飾療法を早期に開始するためには、at risk者が自身の遺伝リスクを知ることが重要だ。同研究で示されたアプローチが、治療法が開発された多くの遺伝性疾患のat risk者の診療に応用されると期待される、と研究グループは述べている。
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・信州大学 プレスリリース