発症早期の介入で運動機能予後改善しうるDYT-KMT2B、簡便な診断方法が必要
東北大学は6月11日、遺伝性ジストニアDYT-KMT2B患者由来の口腔粘膜サンプルについて検討し、H3K4me3と呼ばれるマーカーが患者群で有意に低下していることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学分野の菅野直人助教、東京都立神経病院神経小児科の熊田聡子部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Parkinsonism & Related Disorders」にオンライン掲載されている。
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DYT-KMT2Bは、DYT28とも呼ばれる遺伝性ジストニアである。主に小児期に下肢のジストニアとして発症し、根治療法は存在しないものの発症早期に適切な介入を行うことにより、歩行能を含めた運動機能予後は改善しうることが知られている。そのため早期の診断が求められるが、診断は全エクソーム解析やメチル化DNA解析などの遺伝子解析を要することから、簡便ではないという課題がある。
DYT-KMT2BはKMT2Bの遺伝子異常によってもたらされる。KMT2Bはハプロ不全遺伝子であり、これまでに報告されてきた多くの遺伝子変異がKMT2Bタンパク質の機能不全をもたらしていると考えられている。また、KMT2Bはメチル転移酵素であり、その代表的な基質はヒストンH3である。具体的にはH3の4位のリジン残基(K4)に3つのメチル基を付加(トリメチル化:me3)することによって、H3K4me3を形成する。
H3K4me3は遺伝子発現制御において非常に重要なヒストン修飾となり、いわゆるエピゲノム機構の中核となる。H3K4me3の低下は、その下流において標的となる遺伝子の発現が抑制されていることを意味する。このように、H3K4me3は生命活動の至る所で重要であることから、その程度は多くの因子によって制御されている。事実、H3K4のメチル転移酵素は6種存在し、H3K4me3がどのメチル転移酵素を主として用いているかは細胞種によって異なる。
口腔粘膜由来サンプルでH3K4me3検討、DYTKMT2B群で有意に低下
今回の研究においてまず、インフォマティクス解析でH3K4me3に対してKMT2Bへの依存度が高い細胞を検索したところ、口腔粘膜を構成する細胞がこの条件に該当することがわかった。次に、DYT-KMT2B12例とコントロール12例において口腔粘膜由来サンプルを用いてH3K4me3を検討したところ、DYTKMT2B群では有意に低下していた(p<0.001)。さらに、この傾向はジストニア発症からの期間が短いほど顕著であり、発症早期での疾患群選択性により優れていることを明らかにした。
VUSを判定する根拠として応用できる可能性も
DYT-KMT2Bは比較的まれな疾患だが、遺伝性ジストニアの中では高頻度で発症することが知られている。臨床的にジストニアを主な症状とした疾患であることがわかった場合、これまでは診断のために次世代シーケンサーを用いた検索が必要だったが、今後は口腔粘膜によるスクリーニングによって診断できる可能性がある。
特にDYT-KMT2Bで見られる遺伝子変異の種類は多岐に渡り、新たに見出された遺伝子の差異が個性の範疇なのか、それとも疾患に結びつくのかの判定はしばしば問題となる。将来的に、口腔粘膜を用いた検査が意義付け不明のバリアント(Variant of Unknown Significance:VUS)を判定する根拠の一つとなる可能性がある。「今後、より判定の精度を高めるためH3K4me3に付随して変化しうる他のヒストン修飾を組み合わせて検討を重ねていく予定」と、研究グループは述べている。
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