医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 希少疾患RVCL、TREX1機能異常がDNA二本鎖切断引き起こす機序判明-新潟大ほか

希少疾患RVCL、TREX1機能異常がDNA二本鎖切断引き起こす機序判明-新潟大ほか

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年06月12日 AM09:20

TREX1変異がどのようにRVCLの臓器障害を引き起こすかは未解明

新潟大学は6月10日、)と呼ばれる重篤な遺伝性の希少疾患について、その原因である変異TREX1タンパク質が、DNAの損傷によってRVCLを引き起こす機序を発見したと発表した。この研究は、同大脳研究所分子神経疾患資源解析学分野の加藤泰介准教授、脳神経内科学分野の安藤昭一朗助教、脳病態解析分野の杉江淳准教授、脳研究所所長の小野寺理教授、ペンシルバニア大学Perelman医学大学院のJonathan Miner博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

RVCLには世界中で約200人の患者がいるが、しばしば、がん、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症といった異なる疾患に誤診されている。この病気では体内の細い血管の破壊が起こり、脳、目、腎臓、肝臓など多くの臓器に影響を及ぼす。この病気の患者は通常、40代から50代に認知症、視力の低下、小さな脳梗塞などの症状が現れるが、それまでは全くの無症状である。特効薬や治療法はなく、最終的には脳の萎縮や失明を含む多臓器障害を発症する。

細胞の構造は、DNAを包む細胞の核と、その外側の細胞質と呼ばれる領域からなっており、正常なTREX1は、細胞質に存在している。しかし、RVCL変異TREX1は、通常は存在しない核内にも局在することが知られていた。正常なTREX1は細胞内の不要なDNAを分解する機能を担っているが、RVCLを引き起こすTREX1遺伝子の変異が、どのように臓器の障害を引き起こすのかはこれまで不明だった。

RVCL変異TREX1、相同組み換え修復阻害しDNA二本鎖切断損傷を誘導

RVCL患者の血管には、DNA損傷を引き起こす放射線照射による変化と類似の特徴が見られることが報告されていた。研究グループはこの点に注目し、DNA損傷がこの疾患のメカニズムに関与している可能性を考えた。この仮説を検証するため研究グループは、細胞、ショウジョウバエ、マウスを用いたモデルを作製し、RVCL変異TREX1がDNA二本鎖切断損傷を引き起こすことを発見した。DNA二本鎖切断損傷は放射線照射細胞で観察されるDNA切断様式である。そして、このDNA損傷の誘導は、DNA二本鎖切断損傷を修復する相同組み換え修復の阻害によって起こっていることを発見した。また、RVCL変異TREX1タンパク質が引き起こすDNA損傷によって、細胞は増殖を停止し老化細胞へ形質転換することを発見した。

RVCL女性、50歳未満の乳がん発症リスク約9倍

また研究グループは、RVCL変異を持つ細胞が、相同組換え修復に欠陥のあるBRCA1/2変異がん細胞に選択的に作用する、PARP阻害薬という抗がん剤に感受性が高くなっていることを発見した。PARP阻害薬は、BRCA1/2遺伝子に変異を持つ乳がん患者の治療に用いられている。

これらの特徴が、BRCA1/2変異乳がん細胞と驚くほど類似していたことから、研究グループは、RVCL患者の乳がん発症率について解析を行った。ペンシルバニア大学で収集されたRVCL女性患者16人の乳がん発症率に関するデータを、米国における大規模乳がん女性患者データ(9万7,900人)と比較解析した結果、RVCL患者では若年性乳がんのリスクが高いことが明らかになり、RVCL女性患者では、50歳未満で乳がんを発症するリスクが、一般集団と比べて約9倍であることが示された。これは、RVCL変異TREX1がDNA修復機能を阻害し、DNA損傷の蓄積によって乳がんのリスクを増加させている可能性を示唆している。さらに、TREX1変異がDNA修復に及ぼす影響により、化学療法による損傷を受けやすくなることも判明した。

RVCL発症と関連しない加齢依存的TREX1増加についても理解進む可能性

この研究により、TREX1の量と局在の異常が、RVCLと乳がんの病態メカニズムに重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、TREX1の発現が炎症性刺激によって誘導されたことから、DNA損傷と炎症が相互に影響し合い、悪循環を形成している可能性が示唆された。

今後は、TREX1の量や局在を調節する因子の同定や、TREX1の核内への異常な局在を抑制する方法の開発が重要になると考えられる。また、DNA損傷と炎症の悪循環を断ち切る方法の開発も重要である。TREX1の機能を調節する化合物や、遺伝子のDNA損傷作用をブロックする化合物の開発が、RVCLの予防や治療に役立つ可能性がある。「TREX1レベルは、RVCLを発症していない健康な人であっても、全てのヒトの複数の組織において、加齢とともに増加する。従って、この研究結果は、RVCLにとどまらず、老化のDNA損傷理論にも影響を与える可能性があり、加齢依存的なTREX1増加に関連するプロセスを理解することも重要であると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大