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EPA摂取が、脂質燃焼亢進や抗疲労性体質の獲得に有効な可能性-北里大ほか

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2024年06月10日 AM09:00

魚油に含まれる脂肪酸が、ラットの骨格筋機能や全身代謝に与える影響は?

北里大学は5月31日、魚油に含まれる脂肪酸の一種であるエイコサペンタエン酸がラット骨格筋において、脂質代謝に優れ、抗疲労性の遅筋タイプの割合を増加させることを見出したと発表した。この研究は、同大獣医学部 動物資源科学科 食品機能安全学の小宮佑介准教授、麻布大学獣医学部 動物応用科学科 食品科学研究室の水野谷航准教授および九州大学、、東海大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

骨格筋を構成する細胞である筋線維は代謝や収縮特性の違いから、遅筋タイプ(type1)、速筋タイプ(type2B)および中間タイプ(type2A, 2X)に分類される。筋線維タイプごとに性質が異なり、遅筋タイプの筋線維は収縮速度が遅く、ミトコンドリアを豊富に含み、脂質酸化能力に優れ、疲労しにくい特徴を持っている。一方、速筋タイプの筋線維は収縮速度が速く、解糖系能力に優れ、疲労しやすい。中間タイプはおおよそ両者の中間的な性質を有している。このような特徴の違いから、筋線維タイプ構成は代謝特性と密接に関連しており、遅筋線維の増加は抗疲労性かつ脂質を燃焼しやすい体質づくりに貢献できる。

以前、研究グループは、食餌性の魚油摂取がラットにおいて筋線維タイプを遅筋方向へ移行することを報告している。しかし、その詳細なメカニズムは明らかになっていなかった。そこで今回の研究では、魚油に含まれる特徴的な脂肪酸に着目し、ラットの骨格筋線維タイプ、骨格筋機能や全身代謝に対する作用やその機序を明らかにすることを目的とした。

EPA投与がラットのエネルギー代謝を亢進させ、筋機能も向上させると判明

まず、魚油に含まれる代表的なオメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含むさまざまな脂肪酸を用いて、遅筋タイプ形成や骨格筋の脂質代謝に関連しているPPARδのアゴニスト活性を調べた。その結果、EPAに合成PPARδアゴニストに匹敵するほどの高いアゴニスト活性があることが判明した。一方で、DHAではこの活性は確認されなかった。

そこでEPAに着目し、ラットにEPAを4週間投与した。まず、呼気ガス計測装置を用いて全身代謝を測定したところ、EPA投与区は対照区と比較して、酸素消費量が有意に増加した。また、麻酔下での脛骨神経への電気刺激により発生する後肢ふくらはぎ筋の最大発揮張力を測定した結果、EPA投与区で有意に高い値を示し、筋持久力も有意に向上した。つまり、EPA投与がラットのエネルギー代謝を亢進させ、筋機能も向上させることが明らかになった。

EPA摂取でラット骨格筋の遅筋タイプ割合が増加

次に、これらのEPAによる作用に筋線維タイプの変化が関与しているかを調べた。長趾伸筋からタンパク質およびtotal RNAを抽出し、遅筋タイプマーカーであるミオシン重鎖(MyHC)1の発現量を解析した。その結果、EPA投与区でタンパク質、mRNAレベル両方で対照区と比較して、有意に発現量が増加した。免疫組織化学染色で足底筋の筋線維タイプ組成を調べた結果、上記と同様に、EPA投与区でMyHC1陽性筋線維の割合が有意に増加した。

EPAが筋細胞のPPARδ/AMPK経路を活性化し、TCAサイクルを活発にする可能性

最後に、エイコサペンタエン酸が筋細胞で遺伝子や代謝物にどのような影響を与えているかを確かめるため、EPA添加が培養筋管細胞における遺伝子および代謝物にどのような影響を与えるか網羅的解析(RNA-seqおよびメタボローム解析)を行った。その結果、EPA添加は筋細胞のPPARδおよびAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)経路を活性化することが明らかになった。これに加え、脂質をエネルギー源として有酸素系の代謝経路であるTCAサイクルを活発にすることも示唆された。

健康科学・スポーツ科学分野に貢献できる可能性

今回の研究により、魚油に含まれるEPAの新規機能性として「骨格筋の遅筋線維割合を増加し、全身脂質代謝・筋機能を向上する」ことが判明した。

「同研究成果は、古くから知られていた魚油摂取が脂肪燃焼を促進する理由の一端を解明するとともに、魚油摂取が脂質燃焼作用の亢進や抗疲労性体質の獲得といった運動トレーニングと類似した効果を引き起こすことを明らかにした。同成果は、健康科学分野やスポーツ科学分野に貢献できると考えている」と、研究グループは述べている。

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