下肢筋力を対象としたGWASはほとんどなかった
理化学研究所(理研)は5月20日、日本人高齢者における膝伸展(ひざしんてん)筋力のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、下肢筋力に関連する領域を同定したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの伊藤修司客員研究員(島根大学医学部整形外科学講座助教)、寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー(研究当時)、島根大学医学部整形外科学講座の内尾祐司教授、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の田村好史教授、整形外科・運動器医学の石島旨章教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。
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サルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)は高齢者における骨格筋量の低下や筋力もしくは身体機能の低下を指し、転倒や骨折、さらには死亡といった事象につながる。近年、サルコペニアの定義においては筋量よりも筋力が重要視されてきている。また、下肢の筋力が上肢の筋力より将来的な健康指標と関連するとの報告もある。筋力に遺伝的要因が関連することは知られているが、これまでのGWASの報告は多くが握力を対象にしており、下肢筋力を対象としたGWASはほとんどなかった。
一般住民3,452人の膝伸展筋力に対するGWAS実施、関連する1領域を同定
研究グループは、島根県内の一般住民を対象にしたShimane CoHRE Studyから60歳以上の参加者1,845人、東京都文京区の一般住民を対象にしたBunkyo Health Studyから65歳以上の参加者1,607人の膝伸展筋力結果を用いてGWASを行った。
合わせて3,452人のGWASメタ解析結果から、膝伸展筋力と関連する1領域を同定した。有意となった一塩基多型(SNP)はTACC2遺伝子のイントロン(遺伝情報がコードされていないゲノム領域)上にあった。TACC2は細胞骨格関連遺伝子であり、骨格筋において発現量が多い遺伝子である。細胞内の微小管の安定化や、細胞分裂の際の増殖と分化に関わるとされている。また、TACC2はアンドロゲン(男性ホルモン)受容体の転写制御に関連するとの報告がある。そこで男性のみと女性のみでそれぞれ解析を行ったが、いずれにおいても同等の関連が見られた。さらに、60歳未満の173人の膝伸展筋力データを用いてGWASを行ったところ、GWASの有意水準は満たさないものの、関連の方向性としては一致していた。以上から、この関連はどの年代においても見られることが示唆される。
握力関連のSNP150個と比較、膝伸展筋力との遺伝的背景共有は大きくないと判明
次に、過去に報告された握力のGWASで同定された領域について、今回の研究のGWAS結果を評価した。評価し得た150個の握力と関連するSNPのうち、87個が効果量の方向性が一致していた。そのうち5%有意水準を満たすものは5個あった。この結果から、上肢と下肢で遺伝的背景を共有する部分が小さいことがわかった。
今回の研究結果から、膝伸展筋力に関連する領域としてTACC2遺伝子のイントロンにあるSNPを同定した。TACC2が膝伸展筋力に関わる候補遺伝子であり、サルコペニアを含む今後の研究のさらなる発展が期待される。「上肢の筋力と下肢の筋力では遺伝的背景を共有する部分が小さく、今後は下肢筋力の遺伝的要因の解明に向けて、一層の研究が求められる」と、研究グループは述べている。
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