イリジマシドA、マクロリド構造多様性に対応可能な化学合成法開発が望まれる
東北大学は5月17日、ニッケル触媒とジルコノセンを用いるケトンカップリング反応を駆使した独自の合成戦略により、イリジマシドAの世界初となる化学合成に成功したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の梅原厚志助教と佐々木誠教授、諏訪朝也博士後期課程学生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Organic Letters」にオンライン掲載されている。
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イリジマシドAは、沖縄県沖で採取された海洋シアノバクテリアOkeania属から単離・構造決定されたマクロリドだ。この海洋マクロリド天然物は、マウス由来マクロファージ様細胞(RAW264)において、破骨細胞のマーカーである骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)活性を抑制する。その結果、破骨細胞の分化を抑制する作用を有している。そのため、新しい骨粗しょう症治療薬のリード化合物として期待されている医薬的に有用なマクロリド天然物だ。
類縁天然物としてイリジマシドB、C、D、Eの計4つのマクロリドが単離・構造決定されており、いずれも破骨細胞の分化抑制作用を有している。一方、天然からの供給量には限りがあるため、創薬研究の観点からマクロリドの構造多様性に柔軟に対応可能な合成法の開発が望まれる。しかし、イリジマシドの化学合成の例はこれまで報告されていなかった。
ニッケル触媒+ジルコノセンのケトンカップリング反応を駆使、世界初の化学合成に成功
今回の研究では、ニッケル触媒とジルコノセンを用いるケトンカップリング反応を駆使した独自の合成戦略を立案し、イリジマシドAの世界初の化学合成に取り組んだ。用いるケトンカップリング反応はハーバード大学の岸義人教授らによって開発された方法であり、構造的に複雑な海洋天然物の合成研究に利用されている。しかし、これまで利用数は乏しく、イリジマシドAのような海洋マクロリド天然物の合成への利用実績に関しては皆無だった。実験検討の結果、ケトンカップリング反応は三つのフラグメントの連結を可能にし、マクロリド主要骨格の収束的合成に成功した。さらに、合成終盤でのジエン側鎖とラムノース側鎖の導入によりイリジマシドAの世界初の化学合成を達成。今回の研究は、ニッケル触媒とジルコノセンを用いるケトンカップリング反応が海洋マクロリド天然物の合成に有効であることを示した世界で初めての研究となった。
マクロリド主要骨格の柔軟な合成を可能に、幅広いマクロリド天然物の合成にも応用可能
現在、ニッケル触媒とジルコノセンを用いるケトンカップリング反応を駆使した独自の合成戦略により、イリジマシドAのみならずイリジマシドB、C、D、Eの全ての類縁天然物の化学合成を目指して研究を進めているという。さらに、天然には存在しないアナログの合成も行い、構造活性相関研究を行う計画を立てている。今回開発した新たな合成戦略は、マクロリド主要骨格の柔軟な合成を可能にするものであり、イリジマシドAのみならず構造的に多様な幅広いマクロリド天然物の合成にも応用可能であると考えられる。そのため同研究成果は非常に重要であり、有機合成化学、天然物化学、創薬化学研究の発展に大きく寄与すると期待される、と研究グループは述べている。
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