生活習慣病管理、運動、栄養、認知トレーニングを18か月提供、効果は?
国立長寿医療研究センターは5月8日、生活習慣病の管理、運動、栄養指導、認知トレーニングからなる多因子介入プログラムが、認知機能低下を抑制できる可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センター、SOMPOホールディングス株式会社との共同研究によるもの。研究成果は「Alzheimer’s&Dementia」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
研究では、65~85歳までの軽度認知障害をもつ高齢者531人を対象に、18か月間のランダム化比較試験(J-MINT研究)を行った。介入群は、リストバンド型活動量計、セルフモニタリング用のファイル、タブレットPCを受け取り、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の管理、週1回の運動教室(全78回)、栄養相談(全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニング(Brain HQ)を受けた。一方、対照群には、生活習慣病の管理と2か月に1回の健康情報提供が行われた。
認知機能のコンポジットスコアでの有意差なし、運動教室への参加率が高い群で認知機能改善
介入群と対照群の、18か月間の認知機能の変化を比較すると、主要評価項目である認知機能のコンポジットスコアでは、統計的な有意差はみられなかった。サブ解析として運動教室の70%以上に参加したグループ、70%未満のグループ、対照群の認知機能の変化を比較したところ、運動教室に70%以上参加していたグループでは、70%未満のグループ、対照群と比較して認知機能が改善していたことが示された。
APOE遺伝子E4多型保因者、GFAP上昇者への介入で認知機能維持
また、アルツハイマー病の危険因子として知られているアポリポ蛋白E遺伝子のE4多型の保因者に焦点を当てたサブグループ解析も行った。介入群では認知機能が維持され、18か月間の認知機能の変化に統計学的な有意な差がみられた。
さらに、認知症の血液バイオマーカーとされているアミロイドβ、p-tau181、NfL(neurofilament light chain)、GFAP(glial fibrillary acidic protein)の測定結果に基づいてサブグループ解析を行った。その結果、脳の神経細胞の炎症を反映するGFAPが上昇している参加者において、介入群では認知機能が維持され、18か月間の認知機能の変化に統計学的な有意な差を認めた。
自治体での実施可能性の検証と広域展開を予定
J-MINT研究では、研究終了後1年毎に行われるフォローアップ調査を通じて、多因子介入プログラムの長期的な効果や認知症発症に対する抑制効果を検証するとしている。また、J-MINT研究の成果を広く社会に普及させるため、2024年2月から、厚生労働省が実施する「中小企業イノベーション創出推進事業(令和4年度第2次補正予算)」における「リアルワールドデータを活用した疾患ハイリスク者の早期発見 AIシステム開発と予防介入の社会実装検証」にて、自治体での実施可能性の検証と広域展開を行う。
「今回、日本ではじめて多因子介入プログラムの認知機能低下の抑制効果を検証した。継続的な多因子介入プログラムの実施が認知機能の改善につながる可能性があり、アポリポ蛋白E遺伝子のE4多型の保因者や血漿中のGFAが上昇している者において、多因子介入プログラムの効果が得られやすい可能性が示された。これらの結果は、日本の認知症発症を減少させる大きな第一歩となることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立長寿医療研究センター プレスリリース