過剰なCAR-T細胞の増殖はサイトカイン放出症候群を引き起こす可能性がある
慶應義塾大学は4月26日、がんに対する免疫療法であるキメラ抗原受容体(CAR)-T療法の効果と安全性を同時に高める人工遺伝子の開発に成功したと発表した。この研究は、同大医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門の籠谷勇紀教授、吉川聡明助教、タカラバイオ株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports Medicine」に掲載されている。
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体の中にある免疫細胞を利用してがんの治療を行う「がん免疫療法」が新しい治療法として期待されており、その代表例としてCAR-T療法が挙げられる。この治療では免疫細胞の1つであるT細胞を患者本人の血液から取り出し、体外でCARを発現させる人工遺伝子を導入することで、がん細胞のみを強力に攻撃できるように加工した上で再び体内に戻す。白血病などの一部の血液がんに対して高い効果を既に示しており、他のがんへも応用が期待されている。
しかし、一時的に効果が見られた患者でも、がん細胞が完全に消える前にCAR-T細胞が寿命を迎えて徐々になくなり、残ったがん細胞が再び増殖することで再発が起こる。一方、治療の効果が高かった患者ではCAR-T細胞の過剰な増殖により、サイトカイン放出症候群と呼ばれる重い副作用が起こることがある。これは増殖したCAR-T細胞により体の中のマクロファージという別の免疫細胞が活性化され、IL-6というサイトカインが血液中に放出されることにより起こると考えられている。CAR-T療法の効果が高まると必然的に毒性も強くなることから、有効性と安全性をいかに両立させるかが課題となる。
IL-6吸着の受容体とT細胞維持に重要なIL-7受容体をつなぎ合わせた人工遺伝子を開発
研究グループは、CAR-T療法の副作用を抑えながらその治療効果を高めるための人工遺伝子を開発した。この遺伝子は、サイトカイン放出症候群に関わるサイトカインIL-6を吸着する受容体と、T細胞が長期間生きながらえるために重要なサイトカインであるIL-7の受容体をつなぎ合わせたもので、CARとは別にT細胞に導入することで、人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞を作製できる。
人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞、血液中IL-6を減らしつつ高い増殖力
この人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞は、サイトカインIL-6をT細胞自身の中に取り込んで分解することで、血液中のIL-6を減らせることを示した。さらに、人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞は、現在用いられているCAR-T細胞と比較して高い増殖力を持ち、優れた治療効果につながることを複数のがん治療モデルを用いて確認した。
「この人工遺伝子はあらゆるCAR-T細胞に搭載することが可能で、この技術を用いて今後幅広い種類のがんに対して治療効果と安全性に優れたCAR-T細胞の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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