てんかん発作など重篤な症状を示すNGLY1欠損症、詳細なメカニズムは未解明
理化学研究所(理研)は4月22日、遺伝性希少疾患であるNGLY1欠損症を模倣したモデルマウスが示すけいれん様症状を、愛情ホルモンとしても知られるオキシトシンが一過性に抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、理研開拓研究本部鈴木糖鎖代謝生化学研究室の鈴木匡主任研究員、武田薬品工業株式会社R&Dリサーチグローバルアドバンストプラットフォームの蒔田幸正主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。
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真核細胞の細胞質に存在する脱糖鎖酵素NGLY1は、異常な糖タンパク質の分解に関与し、細胞の恒常性維持に貢献していると考えられている。先天的な遺伝子変異によりNGLY1の機能を失ったNGLY1欠損症患者が2012年に米国で初めて見つかって以来、現在までに世界で100人以上の患者が確認されており、2023年末には日本でも最初の患者が報告された。NGLY1欠損症患者は発育不全、四肢の筋力低下、不随意運動、てんかん発作など重篤な症状を示す。しかし、病態発現の詳細なメカニズムは解明されておらず、有効な治療法も見つかっていない。
NGLY1欠損症モデルマウスでも患者で見られるけいれん様症状を示すと判明
理研と武田薬品工業は、NGLY1欠損症の治療法開発を目指して2017年から共同研究を行い、これまでにNGLY1欠損症モデルラットやモデルマウスを樹立し、モデルラットにおいてはAAV-NGLY1の脳室内投与による運動機能の改善を示してきた。今回はNGLY1欠損症モデルマウスにおいてけいれん様症状の有無を調べ、けいれん様症状のメカニズム解析を行った。
NGLY1欠損患者が示すさまざまな病状の一つにけいれん発作があったことから、研究グループはNGLY1欠損症モデルマウスもけいれんを発症するかを調べたところ、このマウスは1日に30~40回の頻度でけいれん様症状を示すことがわかった。
モデルマウス視床・視床下部でオキシトシン遺伝子の発現低下
NGLY1欠損症モデルマウスのけいれん様症状の原因を解明するため、このマウスの脳内や脊髄における遺伝子発現を網羅的に測定し、正常型マウスと比較した結果、NGLY1欠損症モデルマウスの視床においてオキシトシン遺伝子の発現が低下していた。その後の解析で、オキシトシン遺伝子の主な産生部位である視床下部においても、オキシトシン遺伝子とペプチドの両方が低下していた。
オキシトシンペプチド経鼻投与、マウスのけいれん様症状を一過性に抑制
オキシトシンのペプチドを脳内に送達させる手法としては経鼻投与が知られている。今回の研究においてもNGLY1欠損モデルマウスに対してオキシトシンペプチドの経鼻投与を行い、血中や脳内でのオキシトシン濃度の上昇を確認した。そして、オキシトシンペプチドを経鼻投与すると、NGLY1欠損モデルマウスのけいれん様症状は一過性に抑制された。以上より、今まで報告されていなかったNGLY1とオキシトシンの関連や、オキシトシンの新たな薬効が示唆された。
オキシトシンが遺伝子治療より侵襲性低い治療法につながる可能性に期待
NGLY1欠損症モデルマウスの病態解析から見出されたオキシトシンの発現低下が、NGLY1欠損症患者でも同様に確認されれば、同モデルマウスの臨床外挿性の高さが示される。そして、既に分娩促進への適用が承認されているオキシトシンが、NGLY1欠損症のけいれん抑制に適用拡大されれば、AAV-NGLY1を用いた遺伝子治療よりも侵襲性の低い治療法となることが期待される。
また、「オキシトシンの発現低下がNGLY1欠損症以外の神経変性疾患でも共通して見つかれば、本研究成果の応用範囲を広げることができ、希少疾患研究の重要性が示されると期待できる」と、研究グループは述べている。
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