線維化障壁を実験的に再現するのが困難だった
岡山大学は4月22日、膵がんの特徴であり難治化の原因である「線維化障壁」の形成にタンパク質ROCK2が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の狩野光伸教授、岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)の田中啓祥助教、東北大学大学院医学系研究科の正宗淳教授、東京大学大学院工学系研究科のカブラル・オラシオ准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Controlled Release」に掲載されている。
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膵がんは、代表的な難治がんであり、5年生存率はいまだ1割ほどで、罹患率も世界的に増加傾向にある。膵がんの特徴である線維化は、がん細胞へ血液中の各種の薬剤が到達するのを阻む障壁となることが、これまでの研究より明らかとなっている。したがって、こうした「線維化障壁」の克服戦略を確立することが、膵がんの治療成績を改善するうえで重要だ。しかし、線維化障壁を実験的に再現することは難しく、どのように線維化障壁が形成され、どのようにすれば治療することができるのか、これまで不明だった。
立体培養で膵がん線維化障壁の再現に成功しROCK2を同定、標的化で治療効果も
今回研究グループは、線維化障壁のメカニズム解析を行うため、独自技術を用いて膵がん患者由来の線維芽細胞を立体培養した。構築した立体組織では、コラーゲン等の線維性タンパク質が沈着し、それに伴い薬剤を模した物質が通過しにくくなることが認められた。こうして試験管内に再現することに成功した「線維化障壁」を詳しく解析したところ、タンパク質ROCK2が線維化において認められるコラーゲンの過剰沈着等の異常過程に関わることを見出した。
また、ROCK2を標的化することで、線維化障壁を克服しうることも判明した。具体的には、タンパク質ROCK2を標的化することで、コラーゲン沈着量が減少し、薬剤通過効率が改善。ROCK2標的化によって、薬物通過効率は約4倍増加、コラーゲン沈着量は約6割減少することがわかった。
ROCK2標的薬剤は他の疾患で開発中、既存薬により線維化を克服できる可能性
線維化障壁形成への関与が明らかとなったROCK2は、すでに他の疾患での適応を目指し薬剤の開発が進んでいる。「研究成果は、これら既存薬剤を用いた線維化障壁克服の可能性を示唆するとともに、線維化障壁の形成メカニズムとその克服法の詳細な解析を可能とする実験基盤を確立したことで、膵がんの新たな治療戦略開発の足掛かりとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
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