リバーロキサバン、授乳による乳児への薬物暴露の安全性は不明だった
京都大学は4月15日、リバーロキサバン服用中の授乳婦を対象に、母体の血中薬物濃度および母乳中薬物濃度に加えて、乳児の血中薬物濃度を測定して薬物動態モデル解析に基づいた検証を行い、その結果を発表した。この研究は、同大医学部附属病院 循環器内科の山下侑吾助教、尾野亘同教授、薬剤部の平大樹講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Thrombosis Research」にオンライン掲載されている。
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静脈血栓塞栓症は、女性にとっては妊娠から出産の経過において発症の危険性が高まることが知られている。そして、重症例では時として致死的となるため、周産期の女性にとっては、注意すべき合併症の一つだ。一般的に、静脈血栓塞栓症を発症した患者に対しては、抗凝固療法と呼ばれる血液の凝固を抑制し、血栓を消失させる治療が行われる。一方で、周産期は妊婦から胎児への薬剤暴露や、授乳婦の母乳を介した乳児への薬剤暴露などが心配される。現在、授乳期には比較的安全性が確立していると考えられる内服薬「ワルファリン」もしくは注射薬の「ヘパリン類」が抗凝固療法として使用されている。
ただし、ワルファリンは薬の効き程度を調整するために頻回の採血などが必要であり、また、ヘパリン類は毎日の注射が必要で、授乳婦にとっては大変な負担となる。近年、内服薬としてワルファリンに替わる新しい機序の薬剤「直接型経口抗凝固薬」が登場した。これらは頻回の採血などが不要なため、授乳婦への負担軽減という点では大きなメリットがあると考えられる。しかし、授乳を介して乳児に影響する可能性が否定できなかったため、これまで使用されることはほとんどなかった。直接型経口抗凝固薬の一種である「リバーロキサバン」は、授乳婦にとっても安全性が高い可能性が報告されていたが、授乳による乳児への薬物暴露が安全であるかについては不明点が多かった。
リバーロキサバン服用中の授乳婦を対象に、母乳薬物移行性・乳児曝露量などを検証
そこで研究グループは今回、リバーロキサバン服用中の2人の授乳婦を対象に、母体の血中薬物濃度および母乳中薬物濃度に加えて乳児の血中薬物濃度を測定し、薬物動態モデル解析に基づいた検証を行い、リバーロキサバンを内服した授乳婦による乳児への授乳が安全に行えるか否かを明らかにすることを目的とした。
2症例ともに、リバーロキサバン内服直前および内服2時間後の母体血液および母乳サンプルを採集した。授乳は内服2時間後に実施し、授乳2時間後に乳児の血液検体を採取。血漿中および母乳中のリバーロキサバン濃度を測定し、母体および乳児の血中リバーロキサバン動態を、薬物動態モデルにより解析した。
リバーロキサバンの授乳婦に対する安全を確認、3か月後まで乳児も異常なし
その結果、母体血中および母乳中薬物濃度は、リバーロキサバン内服直前ではそれぞれ6.7~16.2ng/mLおよび1.9~4.7 ng/mLであり、内服2時間後ではそれぞれ151.0~167.4 ng/mLおよび39.0~59.5ng/mLだった。一方、乳児血中からはリバーロキサバンは検出されなかった。また、いずれの乳児においても3か月後までのフォローアップ期間において、出血などの副作用は観察されなかった。
推定された母乳中/母体血漿中濃度比は0.27~0.32であり、相対的乳児投与量は0.82~1.27%と十分に低値であり、リバーロキサバンは授乳婦に対して安全に投与可能であることが示唆された。また、母乳中濃度から算出した1日あたりの乳児薬物摂取量は0.0018~0.0031 mg/kg/dayであり、小児患者を対象としたリバーロキサバンの臨床試験における投与量(0.5~1.05mg/kg/day)と比較しても1%未満と極めて低く、安全性に対する懸念は極めて低いことがわかった。
5日間の連続授乳後も、乳児血中のリバーロキサバン濃度は定量限界以下
さらに、母乳中濃度が高値の状態で1日8回授乳(授乳量150 mL/kg/day)を想定した高曝露条件でのシミュレーションを行っても、5日間の連続授乳を行っても乳児血中におけるリバーロキサバン濃度は定量限界(2.5 ng/mL)以下で維持されることが示された。これらの結果は、授乳婦に対するリバーロキサバン投与による乳児への曝露は限定的であることを示唆し、リバーロキサバンの投与が安全な治療選択肢の一つとなり得ることが明らかとなった。
リバーロキサバン安全投与に向け、複数の施設が参画する大規模研究を検討中
今回の研究により、授乳婦へのリバーロキサバン投与の安全性が高いことが示された。授乳婦に対し同薬剤を安心して使用できることで薬剤投与に関する大きな負担が軽減され、その意義は大きいと考えられる。一方、今回の検討結果は2人の患者における検証であり、さらに多くの患者で検証を行うことも重要だ。研究グループは、多数の施設が参画するより大規模な研究を行うことを検討している、と述べている。
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