外傷治療で広く用いられるトラネキサム酸、どの患者への投与が最適かは明らかでない
大阪大学は3月20日、開発した外傷フェノタイプに基づき、特定の外傷サブグループにおいて抗線溶薬トラネキサム酸の投与が生命予後に関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の舘野丈太郎特任助教、松本寿健特任助教、織田順教授(救急医学)、同大大学院情報科学研究科の瀬尾茂人准教授(バイオ情報工学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」に掲載されている。
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外傷による死亡は世界的に重大な問題であり、年間約450万人が死亡している。これらの死亡の多くは出血が原因であり、外傷後早期に起こる血液凝固障害が状況をさらに悪化させる。トラネキサム酸は出血を抑制する効果があり、外傷治療において世界中で広く用いられている。しかし、どの患者に投与するのが最適かについて、まだはっきりと明らかになっていない。
機械学習で外傷患者フェノタイプを分類、5万3,703人対象にトラネキサム酸投与を評価
研究グループは先行研究により、初期診療で得られる情報を基に機械学習技術を用いて、外傷患者の潜在的なサブグループ(フェノタイプ)を同定する方法を開発した。そこで今回の研究は、このフェノタイプ分類を用いて、トラネキサム酸の投与が生命予後にどのように関連するかを評価することを目的に行った。
トラネキサム酸の投与と外傷死亡の関連を、外傷フェノタイプに基づいて分析。日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank:JTDB)を利用して、2019~2021年までに登録された5万3,703人を解析対象者とした。
トラネキサム酸投与、4つのフェノタイプでは死亡率低下も2つのタイプでは高める可能性
解析の結果、トラネキサム酸を投与された患者群では、特定の外傷フェノタイプ(1、2、6、8型)において、死亡率が有意に低下することが示された。一方、他の外傷フェノタイプ(3、4型)では、トラネキサム酸の投与が死亡率を高める可能性が示唆された。
今後、海外のデータセットで結果の再検証などを予定
今回の研究では、外傷患者におけるトラネキサム酸の使用と生命予後の関係を、外傷フェノタイプ(患者の特徴群)に基づいて分析した。結果として、トラネキサム酸の投与による影響が外傷フェノタイプ間で異なることが明らかとなった。外傷患者において、治療効果には異質性があることが示唆される。今後、海外のデータセットで結果の再検証を行うとともに、分子病態の側面から結果のメカニズムを解明することを目指すという。これにより、トラネキサム酸が特に効果的な患者を早期に特定し、より最適化された治療を施すことが可能になる。このようなアプローチは個々の患者の状態に最も適した治療法を選択することを可能にする点において個別化医療を進める第一歩になる、と研究グループは述べている。
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