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腹部鏡視下手術の合併症「皮下気腫」、発生率・危険因子を特定-兵庫医大

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2024年03月28日 AM09:30

皮下気腫の発生における患者背景や手術因子の関連を調査

兵庫医科大学は3月26日、看護師や放射線技師など多職種と連携し、約2,500人の患者データをもとに腹部鏡視下手術の際の合併症である「」の発生と、患者の背景や手術因子の関連について調査し、発生率や危険因子などを探索した結果を発表した。この研究は、同大医学部 消化器外科学(下部消化管外科)の伊藤一真病院助手(指導:片岡幸三講師、池田正孝主任教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Surg Endosc」に掲載されている。

従来の開腹手術と比較して侵襲の少なさから、腹腔鏡手術がさまざまな領域で一般的になってきている。しかし、腹腔鏡手術やロボット支援下手術などの鏡視下手術では高炭酸ガス血症、皮下気腫、気胸、縦隔気腫などの気腹に関連する合併症が報告されている。その中でも皮下気腫は最も一般的な合併症として知られており、既存の報告では罹患率は約3%と報告されている。

ところが、手術直後にレントゲン検査やCT検査を行うと罹患率が約24~56%と非常に高いことが判明した。腹部鏡視下手術中の皮下気腫は、腹部から胸壁、さらには頸部まで到達することがあり、ときには気胸や抜管困難の原因ともなる。これまでの研究では、皮下気腫の危険因子として、腹腔内圧が高いこと、呼気の二酸化炭素濃度が高いこと、長時間の手術、ポート(鏡視下手術時の創部)数が多いことなどが報告されている。最近の研究では、ロボット支援下手術は腹腔鏡手術と比べて皮下気腫を引き起こすリスクを増加させるという報告もある。しかし、ロボット支援下手術は近年導入された手術であり、皮下気腫発生率増加との明らかな因果関係、臨床経過に与える影響については十分に検討されていない。

/ロボット支援下手術を受けた患者2,503例の約23%に皮下気腫を確認

研究グループは、2019年4月1日~2022年9月30日までの間に兵庫医科大学病院の腹部外科(上部消化管外科、下部消化管外科、炎症性腸疾患外科、肝胆膵外科、産科婦人科、泌尿器科)で腹腔鏡手術またはロボット支援下手術を受けた患者2,503例の情報を収集し、データ解析を実施。皮下気腫の発生率、抜管困難の発生率、皮下気腫の危険因子の探索を評価項目とした。皮下気腫の有無の確認は、手術終了直後の胸部・腹部レントゲン検査、または看護師による術中触診のいずれかにより確認した。

皮下気腫は腹腔鏡手術またはロボット支援下手術を受けた2,503例のうち、577例(23.1%)に認められた。皮下気腫が頸部に及んだものは全症例の5.9%ほどだったが、頸部に皮下気腫を認めた患者の約3分の1が抜管困難となっていた。

皮下気腫発生の危険因子として「女性・低BMI・長時間手術」などを同定

皮下気腫発生の危険因子としては、女性、高齢(80歳以上)、低BMI(BMI20以下)、長時間手術(手術時間360分以上)、、高腹腔内圧(気腹圧)、終末呼気二酸化炭素濃度(息を吐き切った時の二酸化炭素濃度)が同定された。

年齢を除くこれらの因子は、抜管困難の原因となる重症皮下気腫(皮下気腫が頸部まで及ぶもの)の独立した危険因子としても同定され、以前に報告されていたものと類似していた。また、高齢、低BMI、ロボット支援下手術の因子に関しては体組織の脆弱性と関連するものと報告されており、高齢の患者や痩せている患者は皮下脂肪が少なく組織が脆弱であるため、手術操作により腹壁の組織が破壊され、皮下気腫を発生しやすいとされている。

ロボット支援下手術の術中モニタリング、手術中の二酸化炭素濃度コントロールが重要

加えて、ロボット支援下手術では人間が操作するよりもはるかに強い力でアームが操作されている。これによりポート挿入部の腹壁が破壊され、皮下気腫が生じる可能性がある。近年、ロボット支援下手術が増加していることを考えると、術中のモニタリングをより細やかに行う必要がある。

さらには、腹腔内への二酸化炭素送気量も皮下気腫の発生に関与している。高い気腹圧や呼気終末二酸化炭素濃度も重症皮下気腫発生の危険因子として同定されている。手術中の腹腔内圧、適切な換気による二酸化炭素濃度コントロールが必要となる。

皮下気腫増悪のリスクを最小限に抑えるために術中の細やかなモニタリングが重要

今回の研究における皮下気腫の発生率は、これまでに報告されたものよりも高かった。これは、術後のレントゲン検査や術中の看護師による定期的な触診によるチェックが徹底されていたためと考えられる。また、皮下気腫発生率は高かったものの、重症皮下気腫発生率は過去の報告よりも比較的低い結果だった。重症皮下気腫は約80%(26/33例)で頭低位を必要とする手術で発生していた。同院で重症皮下気腫の発生が低かった原因として、手術中に3時間ごとに頭低位を解除し、1時間ごとに看護師が触診するという取り組みが有用であったと考えられる。また、手術中に皮下気腫を発見した場合は外科医と麻酔科医に報告され、直ちに対応を行うことで、皮下気腫増悪のリスクを最小限に抑えることができたとしている。

一方、発生率はかなり低いものの、抜管困難となる重症皮下気腫の発生が確認された。今後、ますます進む高齢化やロボット支援下手術の発展など危険因子として同定されたものは、今後の医療において避けては通れない。

「本研究は、当院のみの過去のデータの解析であり、さらに気腹に使用された二酸化炭素総量、皮下気腫発生に影響を及ぼす可能性のある人工呼吸器設定や輸液量などの麻酔管理情報が不足していた。腹腔内圧や呼気終末二酸化炭素濃度のモニタリングは、高齢者や痩せ型の患者の鏡視下手術を行う上で不可欠だ。特に高齢患者では、抜管困難を避けるために厳密な管理が必要となる」と、研究グループは述べている。

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