日本の「斜視」有病率を、レセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて算出
京都大学は3月19日、ほぼ全国民の病名等のデータが格納されているレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を使って斜視の患者数を調べ、日本の人口統計から有病率を算出したと発表した。この研究は、同大医学研究科の宮田学講師、辻川明孝同教授、データ科学イノベーション教育研究センターの田村寛教授、同大附属病院の三宅正裕特定講師、木戸愛同非常勤講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Ophthalmology」にオンライン掲載されている。
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斜視に関する疫学調査は、限定的な集団、年齢層、人種で行われており、国全体の調査などは行われていないため、全体像が掴めていなかった。
一方、日本は国民皆保険制度を採用しており、ほぼ全人口をカバーしている。厚生労働省からレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)が提供されるようになり、日本全体の疫学調査が可能となった。韓国や台湾でも同様のデータベース調査は可能だが、人口は日本が最大だ。
日本人の斜視有病率2%強、性差なし・学齢期/高齢期に多く病型の割合に年齢差あり
研究グループは厚生労働省の承認を得て、NDBオンサイトリサーチセンターでNDBデータから2009年4月1日~2020年9月30日までの間に斜視病名を有する人の数を調べ、日本の人口に対する割合として有病率を求めた。斜視の年間発生率に関しては、2019年の1年間に新たに斜視病名がついた人の数をカウントし、人口に対する割合として求めた。さらに、それぞれの病型(外斜視、内斜視、上下回旋斜視)に分類して調べ、5歳ごとの年齢グループや性別ごとにも分けて調べた。
全体で斜視の有病率は2.154%、1年間の発生率は10万人あたり321人だった。年齢グループ別に見ると、有病率は学齢期と高齢期で高い二峰性を示した。性別で大きな違いはなかった。有病率の各病型割合は、外斜視67.3%、内斜視26.0%、上下回旋斜視6.7%だったが、上下回旋斜視に関しては、19歳以下では1.4%だったのに対し、19歳以上では10.2%と、年齢による大きな差があった。上下回旋斜視は加齢性の変化で生じる可能性を示唆している。外斜視と内斜視の割合は、白人では内斜視の方が外斜視より多いことが多くの研究で報告されているが、日本人は外斜視が2.6倍多く、遺伝的な背景が関与している可能性がある。
一つの国の斜視の有病率や年間発生率に関する全国調査は、同研究が世界初となる。全体像を把握することで、50人に1人という多くの方が斜視を抱えており、国民病の一つであることが示唆された。斜視は両眼視を阻害するのみでなく、眼精疲労や頭痛といった種々の不定愁訴につながる可能性もあるため、それらの一つの鑑別疾患として斜視を調べ、適切な治療を行うことが求められる。
斜視の遺伝的な背景を視野に、ゲノム解析も実施予定
研究グループは病型割合の人種差からも、斜視には遺伝的な背景が考えられることから、今後はゲノム解析にも注力していこうと考えており、その一つの方法として「ながはまスタディ」の結果を解析することを予定しているという。
「斜視は50人に1人という結果だったが、軽症の斜位(隠れ斜視)は2人に1人と言われている。不定愁訴につながっている可能性もあり、正確に診断されていない人も多くいると考えられるため、気になる人には眼科での眼位検査をお勧めしたい」と、研究グループは述べている。
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