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神経難病治療への有効性と安全性が高い核酸医薬を開発-東京医歯大ほか

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2024年03月25日 AM09:10

臨床開発が急速に進むASO、副作用のための投与量制限が問題となっている

東京医科歯科大学は3月19日、核酸塩基を修飾した糖部架橋型核酸「」による新規の核酸化学修飾技術を新たに導入した核酸医薬()についてマウスを用いて検証し、その結果高い有効性を保持しつつ重篤な神経系の副作用を劇的に改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野の横田隆徳教授、吉岡耕太郎特任助教、Su Su Lei Mon特任研究員、松林泰毅大学院生、大阪大学大学院薬学研究科生物有機化学分野の小比賀聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy-Nucleic Acids」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ASOは次世代の分子標的医薬として注目され、最近は、脳や脊髄といった中枢神経の疾患を中心に臨床開発が急速に進んでいる。特に小児の神経難病の一つである脊髄性筋萎縮症を対象としたASOは日本を含む60か国以上で承認され、2023年には特定の遺伝子変異がある筋萎縮性側索硬化症を対象としたASOも米国で迅速承認された。このようなASOの開発動向を受けて、「神経難病が治る時代」への期待が大きくなっている。

中枢神経の疾患を対象としたASOは、中枢神経組織の周囲の空間である髄腔内へ投与することが一般的であるが、ASOの開発段階での大きな障害として、髄腔内に投与した際にけいれんや意識障害、運動機能の異常といった副作用が出現することが挙げられる。その結果、特に有効性が高い有望な候補品が副作用のために投与量に制限が生じてしまい、結局十分な有効性を引き出せない問題が存在した。さらに、核酸医薬は一人一人の遺伝子の異常に応じて薬物の設計が可能であるため、超希少疾患と呼ばれるような患者数が非常に少ない遺伝性疾患に関しても個別の創薬開発が注目されている。しかし、そのような個別化治療のための創薬開発には候補薬の選別に時間的・金銭的にも大きな制約が存在し、有効性と安全性の両立する候補品を見出すことは容易ではない。それらのことから、中枢神経の疾患を標的とした核酸医薬の臨床応用には、有効性と安全性の両立を可能とする新たな技術の開発が望まれている。

新技術を用いたBNAP-AEO ASO、マウス脳室投与で有効性と重篤な神経毒性改善を確認

研究グループは新規の核酸分子の化学修飾技術である、2′,4′-BNA/LNA with 9-(aminoethoxy)phenoxazine(BNAP-AEO)を用いて、中枢神経疾患を標的としたASOの有効性および安全性の詳細な検証に着手した。BNAP-AEOは、核酸糖骨格部に対する化学修飾である2′,4′-BNA/LNAと、塩基に対する化学修飾である9-(aminoethoxy)phenoxazineを組み合わせた技術で、研究グループはこれまでにBNAP-AEOを導入した核酸分子が標的RNAへの高い結合能を有することを報告している。

まず、従来型の化学修飾で高活性であるASOおよびそのASOにBNAP-AEOを導入した新規ASO(BNAP-AEO ASO)を設計・合成した。続いて、標的RNAに対する結合能を評価したところ、BNAP-AEO ASOは従来型のASOに比較して、結合能が極めて高いことを明らかにした。次に、これらASOをマウスの脳室と呼ばれる脳周囲の髄腔内に投与し、有効性および安全性の検証を行った。その結果、BNAP-AEO ASOの脳内における標的遺伝子抑制効果は、従来型のASOと同様に高く保持されていた。さらに、神経機能の異常をスコア化した毒性スコアや自発的運動機能を測定するオープンフィールドテストを用いて投与後の神経機能を評価したところ、驚くべきことに従来型のASOで出現するマウスの重篤な神経毒性をBNAP-AEO ASOが劇的に改善することが明らかになった。以上から、BNAP-AEO ASOは高い有効性、安全性を有することがわかった。

従来型ASOが阻害するカルシウムチャネル機能、BNAP-AEOがSigma-1受容体介して改善

さらに、研究グループはBNAP-AEO ASOが神経毒性を改善した機序の解明に着手した。従来型のASOは、神経細胞表面上のカルシウムチャネルの機能を阻害して細胞内のカルシウムイオンが低下することで、急性の神経毒性が出現すると想定されている。一方で、神経細胞に発現するSigma-1受容体は細胞内のカルシウムイオン濃度を調整する役割があること、Sigma-1受容体の活性化剤とBNAP-AEOが構造的に類似することに着目し、BNAP-AEO修飾がSigma-1受容体を介して神経毒性を改善させるのではないかという仮説を立てた。仮説検証のため、Sigma-1受容体の拮抗薬を従来型ASOおよびBNAP-AEO ASOに併用してマウスに投与し、それらASOの神経毒性への影響を評価した。その結果、Sigma-1受容体の拮抗薬の併用により、従来型のASOでは神経毒性が変化しなかった一方で、BNAP-AEO ASOは改善していた神経毒性が再び出現するようになった。つまり、BNAP-AEOの導入による神経毒性の改善にはSigma-1受容体を介した細胞内カルシウム濃度調節によるメカニズムが示唆される結果を得た。

シトシン塩基配列有するASOに広く応用可能、多様な神経疾患の治療に応用の可能性

研究グループは、BNAP-AEO修飾を導入したASOが、高い有効性と安全性を兼ね備えていることを明らかにした。核酸医薬は中枢神経の疾患を中心に創薬開発が精力的に行われており、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病といった神経難病やアルツハイマー型認知症といった頻度の多い神経疾患に対して臨床試験が進んでいる。また、今回の研究で開発した新規の核酸化学修飾はシトシン塩基配列を有するアンチセンス核酸に広く応用することが可能であり、高い有効性および安全性の両立という臨床応用への重要な課題を克服することが期待される。「研究成果は多くの神経疾患の核酸医薬の治療開発のブレイクスルーにつながる可能性を秘めており、本研究の成果を基に有効性および安全性を両立する核酸医薬の基盤技術が確立することで、多様な神経疾患の治療法開発の成功に結びつくことが期待される」と、研究グループは述べている。

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