医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アトピー性皮膚炎「デュピルマブ」の治療効果、経過の層別化で予測可能に-理研ほか

アトピー性皮膚炎「デュピルマブ」の治療効果、経過の層別化で予測可能に-理研ほか

読了時間:約 3分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年03月08日 AM09:30

根本的な治療法として期待されるデュピルマブ、顔の紅斑が残存する症例も存在

(理研)は3月5日、アトピー性皮膚炎の生物学的製剤「」における治療効果の層別化を行ったと発表した。この研究は、理研情報統合本部先端データサイエンスプロジェクトの芦崎晃一技師、医療データ数理推論チームの石川哲朗客員主管研究員、野村皮膚科医院の野村有子院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アトピー性皮膚炎は、軽快や悪化を繰り返すかゆみのある湿疹を主病変とする慢性炎症性の皮膚疾患である。患者は生活の質や仕事の生産性に大きな影響を受けることがある。

アトピー性皮膚炎の主要なメカニズムには、皮膚のバリア機能の低下と、免疫・アレルギー的要素があり、遺伝的背景や環境ストレス、発汗などさまざまな因子が関わって症状が現れる。アトピー性皮膚炎の臨床表現型は非常に多様であり、遺伝的、免疫学的、環境的要因が全ての患者において同等に寄与するわけではない。

2018年に承認されたアトピー性皮膚炎の治療薬であるデュピルマブは、特定の免疫タンパク質によるシグナル伝達を抑えて炎症を防ぐことから、症状の背後にあるメカニズムに即した根本的な治療法となることが期待され、著しく効果が出る症例も多く見られる。しかし、臨床現場では顔の紅斑が残存する難治症例が報告されており、デュピルマブの治療を受けた後も顔の紅斑が持続する理由は明らかになっていなかった。

デュピルマブ治療受けた49人対象に、顔の紅斑の評価・分析と血液検査を実施

この研究では、野村皮膚科医院でデュピルマブの治療を受けた15歳から71歳までの49人のアトピー性皮膚炎の患者を対象とした。2018年7月から2021年7月にかけて、顔の紅斑の評価と分析を行った。顔の紅斑の重症度は、アトピー性皮膚炎の重症度指数(EASI)のスコアに基づいて、2週間ごとに最大16週間にわたって評価した。デュピルマブ投与前と、投与後16週目付近で血液検査を行った。

顔の紅斑スコアの経過、早期寛解/緩徐改善/顔の症状残存傾向の3群に分かれる

まず、デュピルマブ投与前と、投与8回目までの顔の紅斑スコアの経過を、教師なし機械学習の階層的クラスタリングを使用して分類した。投与は2週間ごとに行われるため、16週間にわたる症状経過を分類していることになる。その結果、患者は早期に寛解する群、緩徐(かんじょ)に改善する群、そして顔の症状が残存する傾向にある群の3つのグループに大きく分けられた。

年齢・性別・LDHなどの血液検査データ、治療効果予測に重要な因子と判明

次に、年齢・性別・血液検査データのうちデュピルマブの治療効果予測に重要な因子を特定するため、見出された患者グループに対し、教師あり機械学習手法である勾配ブースティング決定木のLightGBMで予測モデルを構築し、各因子の変数重要度を算出した。早期寛解群と残存傾向群を比較する2クラス分類モデルは、受信者動作特性(ROC)曲線の曲線下面積(AUC)が0.86となり、9割近い精度で識別できた。この識別に重要な変数の上位の因子には、年齢、性別の他に、血液検査と植物の花粉に対するアレルギー検査のデータが含まれていた。

早期寛解群と残存傾向群を見分けるための重要な因子として年齢と性別が挙げられ、10代、40代、50代では残存傾向が高く、女性に比べて男性は残存傾向が高いことがわかった。また、検査データにおける重要な因子の上位六つは、乳酸脱水素酵素(LDH)、免疫グロブリンE(IgE)、好酸球(Eo)、白血球、ハンノキアレルギー、スギアレルギーだった。デュピルマブ投与前において、残存傾向群ではこれらが全て早期寛解群より高い傾向があった。特に、LDHは投与前後で特徴的な変化を示し、投与前は早期寛解群の方が中央値が低かったのに対し、投与後はこの傾向が逆転し、残存傾向の方が低い傾向を示した。これらの因子は、デュピルマブ投与前に治療効果を予測するための指標として利用できる可能性がある。

勾配ブースティング決定木による分類の視覚化も

続いて、代理モデルを用いて勾配ブースティング決定木による分類の視覚化を試みた。代理決定木の視覚化は、複雑なモデルにおいて各因子がどのように機能しているかを理解し、直感的な解釈を可能にする。デュピルマブ投与前の患者がどのように識別されるかについて、治療前のデータによる分岐を図示することで、患者が早期寛解群と残存傾向群のどちらに属するかを予測することが可能である。

AIを活用した予後予測モデル、アトピー性皮膚炎治療以外でも有用

デュピルマブ治療を受けたアトピー性皮膚炎患者における顔の紅斑残存パターンの層別化に関連する重要な因子の同定は、AIを活用した予後予測モデルの基礎を築くものである。「この基礎研究は、アトピー性皮膚炎治療のみならずさまざまな治療選択における将来の医療支援ツール開発のための実質的な基盤を提供し、個別化された治療アプローチの実現と臨床現場での意思決定の有効性を高めることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大