CKD進行と社会経済要因の関連、米国での報告が多い
京都大学は3月4日、全国健康保険協会の生活習慣病予防健診・医療レセプトのデータを用いて、日本での個人の所得と腎機能低下に関連が見られることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科社会疫学分野の石村奈々博士課程学生、井上浩輔特定准教授(白眉センター)、近藤尚己教授と上智大学の中村さや教授、曁南大学の丸山士行教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Health Forum」に掲載されている。
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慢性腎臓病(CKD)は、何らかの原因により腎臓の機能が慢性的に低下する病気で、日本では成人の約8人に1人が罹患しているとされる。腎機能低下が進むと、心臓病や脳卒中などの心血管疾患、貧血、骨折、認知機能障害などさまざまな合併症を発症し、身体機能や生活の質を低下させる。また、末期腎不全に至ると自身の体では生活できなくなるため、腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)が必要となる。それには高額な医療費がかかり、この予防は重要な公衆衛生課題の一つとなっている。
CKDの発症や進行には、所得、教育歴、居住地などの社会経済要因との関連があることが諸外国の研究で示されてきた。しかし、皆保険制度のない米国での報告が多く、皆保険制度のある国、特に、日本における研究はなかった。
協会けんぽ約560万人対象、所得と急なCKD進行・腎代替療法開始の関連性を検討
そこで、今回の研究では、日本における最大の保険者である全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)のデータを用いて、所得と腎機能低下(急なCKD進行、腎代替療法の開始)の関連性を検討することを目的とした。協会けんぽのデータから、2015年度に生活習慣病予防健診を受診した被保険者559万1,060人を対象に解析(平均年齢:49.2歳、女性:33.4%)。2022年度末もしくは保険脱退まで中央値6.3年の観察を行った。
低所得群、CKD進行リスク1.7倍・腎代替療法開始リスク1.65倍
その結果、所得(標準報酬月額)の最も低いグループ(平均月収13万6,451円)は最も高いグループ(平均月収82万5,236円)と比べて、急なCKD進行(年間eGFR低下量>5ml/min/1.73m2)のリスクが1.7倍、腎代替療法(透析、腎移植)開始のリスクが1.65倍高いことが示された。この関連は男女ともに認められたが、女性よりも男性、また、糖尿病グループよりも非糖尿病グループで大きい傾向にあった。
皆保険制度や毎年の健康診断など手厚い医療制度の敷かれた日本においても、所得と腎機能低下の関連性が認められた。皆が同じように健康になれる公平な医療の実現には、現行の医療政策だけでは不十分な可能性が示唆された。
今後、生活習慣・治療の質の差を生み出すメカニズム解明へ
同研究成果により、CKDの予防や診療において、個人の経済状況を踏まえた対応が必要と考えられる。また、生活習慣や治療の質、社会的なストレス、居住地や職場の環境など、差を生み出すメカニズムの解明も必要であり、研究グループは今後研究を進めていく予定。現在の診療ガイドラインでは、患者の社会経済状況に関する言及はないが、どのような人が脆弱でリスクが高いのか、新たな視点で日本におけるエビデンスを構築していきたい、と研究グループは述べている。
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