遊び半分のからかい行動、類人猿にも
子どもが誰かをつついたり髪を引っ張ったりして互いをからかい合う場面は誰もが見かけたことがあるはずだが、このような遊び半分のからかい行動を見せるのはヒトだけではないようだ。オランウータンやチンパンジーなどの類人猿も、さまざまな形のからかい行動を行い、そのような行動はヒトと同様、挑発的で繰り返される傾向があり、驚きや遊びの要素を含んでいることが、マックス・プランク研究所(ドイツ)のIsabelle Laumer氏らによる研究から明らかになった。この研究の詳細は、「Proceedings of the Royal Society B」2月14日号に掲載された。
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研究論文の上席著者で米インディアナ大学人類学教授のErica Cartmill氏は、「類人猿のからかい行動としてよく見られたのは、からかう相手の視界の真ん中で体の一部や物を繰り返し振ったり揺すったりする、相手を叩いたりつついたりする、至近距離から相手の顔をじっと見つめる、相手の動きを邪魔する、相手の毛を引っ張るといった、無視することが極めて難しいものだった」と言う。
今回の研究の背景情報によると、人類の発達において、遊び半分のからかい行動は本格的な冗談やユーモアの前段階として知られている。また、研究グループの説明によれば、ヒトの赤ちゃんも、初めて言葉を発する前の生後8カ月という早い段階で、母親におもちゃを渡すそぶりを見せながら渡さないことを楽しんだり、他の乳児の行動を面白がって邪魔することで注意を自分に引き寄せようとするなど、遊び半分のからかい行動を見せる。
そこで研究グループは、こうしたヒトの行動が類人猿(オランウータン、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ)にも見られるのかどうか調べることにした。その理由についてLaumer氏は、「類人猿はヒトに近縁で、社会的な遊びを行い、笑うことがあり、他者の期待に対して比較的鋭敏に理解を示すことなどから、遊び半分のからかい行動について調べる対象として最適であるため」と説明している。
観察の中で認められた遊び半分のいたずら、あるいは挑発と感じられる自発的な社会的交流を分析した結果、類人猿のからかい行動は、つつく、ボディスラム(抱投げ)を行う、体の部位を引っ張る、何かを盗むなど18種類に分類された。そのような行動のほとんどは、相手の反応を得たり注意を引き寄せたりすることを目的としていた。そしてヒトと同様、からかい行動はいくつかの点で遊び行動とは異なっていたという。Laumer氏は、「子どものからかい行動と同じように、類人猿の遊び半分のからかい行動にも一方的な挑発やからかった後に相手の顔を見て反応を待つといった行動、繰り返しや驚きの要素が含まれていた」とマックス・プランク研究所のニュースリリースの中で説明している。
研究グループによると、著名な霊長類学者であるジェーン・グドール(Jane Goodall)もチンパンジーが似たような行動を取ることを指摘していたが、からかい行動について体系的に研究したのは今回の研究が初めてだという。Laumer氏は、「4種類の類人猿全てに、ヒトの幼児に見られる遊び半分のからかい行動やいたずらと類似した行動が存在していた。そのため、進化の観点から見ると、これらの行動とその認知的前提条件は、少なくとも1300万年前に生息していた人類の共通祖先において、すでに獲得されていた可能性がある」と話す。
Laumer氏は、「今回の研究がきっかけとなって、多面的な行動の進化の解明に向けて、より多くの種でのからかい行動について研究されるようになることを願っている」と述べる。また同氏は、「この研究によって、ヒトに最も近縁な類人猿とわれわれが共有している類似性について、そして絶滅の危機に瀕しているこれらの動物を守る重要性について、人々の認識が高まることを期待している」と話している。
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・Spontaneous playful teasing in four great ape species
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