「酸化ストレス」が正常細胞をがん細胞に変化させるメカニズムは?
九州大学は2月22日、酸化されたDNAが引き起こすDNAの変異が消化管がんの原因となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の大野みずき助教、續輝久名誉教授らと、国立環境研究所の青木康展名誉研究員、国立医薬品食品衛生研究所の能美健彦名誉所員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Genome Research」に掲載されている。
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酸化ストレスは消化管がんの誘発要因と考えられているが、どのように正常細胞をがん細胞へと変化させるのか、その仕組みは十分に理解されていなかった。
そこで研究グループは今回、マウスに酸化剤を含む水と通常の水を与え、小腸でのDNAの変異やがんの発生頻度を解析した。
DNA修復酵素MUTYH、酸化GからTへの変異を減らして消化管がんの発生を抑制
DNA修復酵素である「MUTYH」の機能を欠損させたマウスでは、酸化剤の飲水投与による慢性的な酸化ストレス状態が続くと、早い段階で正常組織内でのDNAの変異が増加し、その後の発がん頻度も著しく増加した。
また、MUTYH欠損マウスではアデニンを取り除く修復機構が働かず、G:CからT:Aへの変異が腫瘍発生に先立って多数発生する。変異の中でも特に、このグアニンの酸化によって引き起こされるG:C塩基対からT:A塩基対への変異の頻度が、酸化剤の濃度とがんの頻度に関連していた。
さらに、特定の塩基配列内に存在するグアニンが酸化されやすいというDNAそのものの性質が、「細胞増殖シグナルを過度に活性化させ消化管発がんの原因となるような遺伝子変異」の発生に影響していることが判明した。一方、MUTYHが正常に働いている野生型マウスでは、酸化剤の濃度が上がっても変異とがんの発生頻度はごく僅かしか増えなかった。
このことから、MUTYHが酸化グアニンによる突然変異を減らすことで、酸化ストレスによる消化管がんの発生を強力に抑制していることが明らかになった。
遺伝性大腸がん家系の「生涯発がん率」軽減方法の探索にも役立つ可能性
今回の研究成果により、酸化されたDNAが消化管がんの原因となることが明らかにされた。「本研究の成果は、突然変異とがん発生のメカニズムの理解を深める一方で、ヒトの遺伝性大腸がん家系での生涯発がん率の軽減方法の探索にも役立つ可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果