逆流性食道炎に有効なPCAB、胃がんリスクとの関係は?
東京大学医学部附属病院は2月15日、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(以下、PCAB)使用がピロリ菌除菌後に発症する胃がんのリスクを高めることを明らかにしたと発表した。この研究は、同院消化器内科の新井絢也医師、新倉量太医師、早河翼講師、藤城光弘教授と、東京大学大学院医学系研究科のヘルスサービスリサーチ講座の宮脇敦士特任講師、朝日生命成人病研究所の春日雅人所長らの研究グループによるもの。研究成果は「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に掲載されている。
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胃がんの主な原因はヘリコバクター・ピロリ菌の慢性感染であり、ピロリ菌を除菌することにより胃がん発生を一定程度予防できると考えられている。しかし、ピロリ菌除菌後の患者の中にも経過とともに胃がんが発生することがあり、除菌後胃がん発生の原因や危険因子に関する研究が進められている。
胃酸分泌抑制剤は逆流性食道炎やその他の上部消化管症状に対して日常的によく使用される薬剤だ。これまでの先行研究では、胃酸分泌抑制剤のうち、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を長期内服することによってピロリ菌除菌後胃がんのリスクが上昇するという報告が散見されていた。一方、PCAB内服に関しては欧米諸国では使用年数が浅く不明な点が多くあった。日本で世界に先駆けて販売/使用されてきたPCABはPPIとは異なる機序で胃酸を強力に抑制する薬剤で、逆流性食道炎の治療に極めて有効だ。
5万4,055人のピロリ菌除菌後患者を対象に解析
研究グループはPCABの一種であるボノプラザンに着目して、ピロリ菌除菌後胃がんのリスクとの関連を解析した。1100万人規模の大規模レセプトデータより、5万4,055人のピロリ菌除菌後患者を抽出し、PCAB内服群に対して、H2RA内服群、PPI内服群とプロペンシティスコアを用いてマッチングを行い、ピロリ菌除菌後の胃がん発症リスク(新規の胃がん病名で定義)を比較した。既報も参考にして、今回用いたデータベースでは観察不能な交絡因子、患者背景、背景胃粘膜の状態をそろえるため、胃がんリスクと関連しないとされているH2RA内服群を対照群とした。
PCAB群はH2RA群に比べて高リスク、PPI群とは同等
5年経過後の胃がん累積発症率はPCAB使用者で2.36%、H2RA使用者で1.22%だった。生存時間分析を行ったところ、PCAB内服群はH2RA内服群と比較すると、除菌後胃がん発症リスクが有意に上昇しており(ハザード比:1.92)、用量・期間依存性も示された。具体的には、PCAB内服期間3年以上でのハザード比:2.36、PCAB高用量内服でハザード比:3.01だった。一方PCAB内服群とPPI内服群を比較すると、除菌後胃がん発症リスクに有意差はなく(ハザード比:0.88)、両薬剤は同等の胃がん発症リスクを有すると考えられた。
国際的なより大規模な検討に期待
今回の大規模レセプトデータを用いたpopulation based studyにより、PCAB内服はPPI内服と同様にピロリ菌除菌後の胃がん発生リスクを上昇させる可能性が考えられる。国内でもPCAB服用患者は増加傾向であるが、近年欧米諸国でもPCABが逆流性食道炎諸症状に対して使用されはじめており、PCABを長期処方される患者は世界中でさらに増加することが予想される。「今後、PCABの長期使用のリスクに関して、国際的なより大規模の検討がなされることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース