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ALSの病態、遺伝的個体差が脳内ミクログリアによる神経保護に関与-名大

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2024年02月06日 AM09:00

不均一なミクログリア細胞集団の構成、遺伝的な免疫環境の違いは影響するのか?

名古屋大学は1月30日、)モデルマウスにおいて、遺伝的個体差に由来する全身の免疫環境などの違いが脳内免疫担当細胞であるミクログリアの細胞集団構成や神経保護性の疾患関連ミクログリア(Disease-associated Microglia:)の出現誘導に影響を与えることにより、病態進行を変化させることを新たに発見したと発表した。この研究は、同大環境医学研究所病態神経科学分野の小峯起講師(筆頭著者)、山中宏二教授、発生・遺伝分野の荻朋男教授、大学院医学系研究科微生物・免疫学の日野原邦彦特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは、運動を司る運動神経細胞が選択的に傷害されて変性し、脱落する神経変性疾患である。全身の筋肉が萎縮して筋力低下し、発症から2〜5年で死亡する最も重篤な神経変性疾患の一つであり、根本的な治療法も確立されていないため、早急な病態解明および治療法の開発が望まれている。

これまで、脳内免疫担当細胞とされているミクログリアのALS病態における役割についてさまざまな報告がされている。一方で、近年のシングルセル遺伝子発現解析の発展により、ミクログリアは、均一な集団ではなく、さまざまな特徴を持つ集団から構成される不均一な集団であり、脳の発達期や成熟期から老年期だけでなく、ALSにおいてもその構成が大きく変化することが示唆されていた。特に、アルツハイマー病モデルマウスやALSモデルマウスにおいては、DAMという神経変性疾患に関連して出現する特徴的な遺伝子発現プロファイルをもつ新たなミクログリアが、近年同定されている。しかし、遺伝的個体差がこれらのミクログリアの細胞集団構成やALS病態に与える影響については、明らかになっていなかった。

遺伝的に異なる2系統由来のALSマウス、ミクログリアの細胞集団構成や生存期間が異なると判明

研究グループは、遺伝的に異なる実験マウス系統であるC57BL/6系統(B6)とBALB/c系統(Balb)のマウスを用いて2種類のALSモデルマウス「ALS(B6)」、「ALS(Balb)」を作製し、両者を比較することにより検討を行った。まず、ミクログリアの細胞集団構成について比較するため、ミクログリアのシングルセル遺伝子発現解析を行なったところ、B6とBalbでは、ミクログリアの細胞集団構成が異なることがわかった。また、ALSモデルマウスにおいても、ALS(B6)マウスに比較して、ALS(Balb)マウスでは、一部のDAMの出現誘導が弱く、両者のミクログリアの細胞集団構成が異なることが判明した。また、ALS(Balb)マウスのミクログリアは、細胞数が減少することがわかった。

次に、ALS病態に与える影響を調べるため、生存解析を行った。その結果、発症期は、両者で差が見られなかったが、生存期間については、ALS(B6)マウスに対し、ALS(Balb)マウスでその生存期間が有意に短縮し、病態の進行が加速することがわかった。

遺伝的背景で発現差のあるDAM、神経保護的に機能するIGF-1を強く発現

そこで、病気の進行が加速したメカニズムを明らかにするため、ALS(Balb)で出現誘導が弱かったDAMの遺伝子発現を調べたところ、ALSにおいて神経保護的に機能することが知られている神経栄養因子であるIGF-1を強く発現していることがわかった。

ミクログリア自身の違いではなく周囲環境の違いに起因すると示唆

最後に、これらのミクログリアの違いが、遺伝的個体差に由来するミクログリア自身の違いに起因するのか、遺伝的個体差に由来するミクログリアの周囲環境の違いに起因するのかについて、明らかにするため、それぞれのマウスの個体から直接単離したミクログリアとそれぞれのマウス系統から培養したミクログリア(同一の培地を使用するため、ミクログリアの周囲の環境は同一となる)の発現遺伝子について主成分分析を行った。その結果、遺伝的個体差に由来するミクログリア自身の違いにおける寄与率(この場合は発現遺伝子の違いの何割を説明できるかを表す)は、10.5%と低く、その違いの多くは遺伝的個体差に由来するミクログリアの周囲環境の違いに起因することが示唆された。従来から知られているように、B6とBalbの全身の免疫環境が異なることも確認できていることから、遺伝的個体差に由来する全身の免疫環境などの違いが脳内のミクログリアの細胞集団構成に影響を与えている可能性が示唆された。

免疫環境への着目、新規バイオマーカー同定や個別化医療創出にもつながる可能性

今回の研究により、遺伝的個体差に由来する全身の免疫環境などの違いが脳内のミクログリアの細胞集団構成や神経保護性のDAMの出現誘導に影響を与え、ALSの病態進行を変化させることが明らかになった。このことは、ミクログリアの細胞集団構成やその神経保護性に個人差があり、ALSなどの神経変性疾患の罹病期間における感受性などが異なる可能性を示唆している。また、これらは全身の免疫環境などの環境要因にも影響を受ける可能性が示唆される。「ミクログリアの細胞集団構成や神経保護性のDAMの出現誘導に関与する免疫環境因子などに着目することで、新規バイオマーカーの同定や個別化医療の創出にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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